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第16章 永遠

彼がセッティングしてくれたアシュタールセッションのおかげで、私の心は随分と救われた。

 

それでもなお私は、自責の念に捉われたり、後悔したりした。

 

毎日毎日、いろんな思いが湧いてきては、冷静に考えられなくなって、疑心暗鬼になったりした。

 

彼といた時は、出来るだけ前向きに考えようと努めていた。
悪い想像をすれば、それが現実になってしまうのではないかと思い、すぐにイメージを削除することにしていた。

でも、それは、もしかすると彼のありのままの状態を受け入れてないだけなのかも知れなかった。

 

私が彼の死を、到底受け入れられないだろうと思ったのだろう。彼は、優しさから自分の死後の話を私の前で一切していなかった。

 

彼の母親に、彼が何か言い遺してなかったかと聞かれた時に、初めてその事に気づいた。

私はポジティブでもプラス思考でも何でもなかった。ただ見たくないものに蓋をしていたに過ぎなかったのだと。

 

けれど、アシュタールを通じて伝えてきた彼のメッセージは、私のネガティヴな幻想を打ち砕いてくれた。

 

まるで彼は、すべてを前もって予期しているようだった。 

 

 

私はお世話になったナースたちにお礼を言うため、彼のいた病棟を訪れた。

 

その日は、彼が一番心を許していたSさんというナースに会った。

彼女は非番で、彼の最期に立ち会うことが出来なかった。けれども他のナースからのメールで、彼が亡くなった事を知らされていた。

 

Sさんは、彼が毎日私が来るのを待っていたと教えてくれた。

Sさんが病室に入ると、彼はいつもがっかりしたような顔をした。

「彼女かと思った?」とSさんはからかった。


彼は、私の前では少しもそんな素振りを見せなかった。

むしろ、「オレの事はいいから、ちゃんと仕事しろよ。」などと言うことが多かった。


けれどSさんは、彼は私が来るのを心待ちにしていたのだと言った。

 
私は、ずっと気になっていた事を、Sさんに打ち明けた。

「私、彼が亡くなる3日前、彼に酷い事を言ってしまったんです。彼の世話を優先するあまり仕事が後回しになってるから、そろそろちゃんと仕事もしないとって。生活が苦しくて、焦りと不安がすごくあって。あの時、あんな事を言わなければ良かった。あれで彼の気持ちが切れてしまったのかも知れない。私の重荷になると思わせてしまったせいかも知れない。」

私は泣きじゃくりながら言った。すると、
「そんな事ない。」
と、Sさんは答えた。

そう言った彼女の目からも、涙がこぼれた。

 

「本当に、あなたがいたから、彼もここまで頑張れたんだよ。ここのナースも、みんな2人の事を応援してた。
あなたも本当に毎日、遅い時間まで、大変だったね。こんなにしてくれる人いないよって、私、彼といつも話してたんだから。いい人見つけたねって。

彼はあなたが無理してる事もちゃんと理解してたし、それでも毎日来て、マッサージしてくれるんだって言ってた。

私たちナースもみんな、あなたたち二人を見てて、いつも感動してたんだよ。」

 

Sさんと話す事で、彼が私に言ってくれなかった、溢れるほどの私への想いが伝わってきた。

 

それはまるで、彼が先回りして、私を慰めてくれているかのようだった。

 

彼は、毎晩地獄のような痛みと息苦しさに耐えていた。
私が帰ってから、夜が明けるまでの長く孤独な時間を、ずっと。
また次の日、私に会うために。

 

 

そしてさらに、お通夜の夜に彼の母親から聞かされた、彼の想いの深さ。

 

「あの子とあなたが車で出かけ始めた頃、やっと好きな人が出来た、と私に言ってくれたの。

 

私はあの子が早く結婚してくれたら良いと思っていたけど、相手は人の奥さんだし、自分の病気の事もあるから、一緒にはなれないと。

 

だから、あなたの事は、最初から他人とは思えないのよ。会う前から、ずっとどんな人だろうと思って気になっていたから。

 

死ぬまで結婚は出来なかったけど、まるで夫婦みたいに毎日過ごせて、あなたのおかげであの子は幸せだったよ。」

 

私の前では、ずっと頑なに「恋人にはなれない」と言っていた彼。

 

本当は、ずっと前からお互いの想いは通じ合っていたんだ。

 

天使に、彼の気持ちを訊ねながら引いたカード。

「Wedding  結婚 」

 

もし、もっと早く出会えていたら、二人はどんな人生を歩んでいただろう。

なぜ、もっと早く出会えなかったんだろう?

なぜ、今だったんだろう。

 

でも、最後の答えは、何となく分かる気がした。

彼の魂はもしかしたら、私と出会った時に、今度は自分が先に死ぬと決めていたのではないだろうか。

いつも愛する人を失うという人生ばかりだったから、今回だけは、自分の愛する人に看取られたかったんじゃないだろうか。

 

 

彼の肉体がこの世から無くなるまでの間、私は何度も何度も彼に触れた。

彼に触れられる事で得られた幸せも、安心感も、愛も、すべて一緒に失ってしまう様な気がして、辛くて仕方がなかった。

残りの時間、彼の感触を確かめるように、彼の肌を覚えて手のひらに刻み込むように。

彼の好きだったラベンダーの香りを、そっと襟元に染み込ませた。


お葬式の前夜、彼の遺影の前で、長い間ぼんやりとしていた時、笑っているはずの彼の顔が、なぜか涙を流しているように見えた。

「あなたも泣いてるんだね。」
と私は呟いた。

 

彼と出会って1年と少し。恋人として一緒にいられたのは、77日という僅かな時間だった。

でも、私たちは必要な時に出会い、お互いの事を慈しみ、愛し合う事が出来た。

 

彼の好きだった曲を選んで、お葬式にかけてもらった。曲を選ぶ時も、私は彼に訊ねながらCDを作った。


お葬式が終わって、数日後。
彼が私に見せてくれた夢の中で、彼の背中には、羽根が生えていた。

それはまさに、私がハルミさんのセッションの時に見た、黄金色に光り輝く大天使のような姿だった。


「かっこいいだろ? これで、どこへでも飛んで行ける。」
彼は少し得意げに言った。


彼の魂は、自分が亡くなる日をアシュタールのセッションに合わせたと、私は思っていた。

それは彼なりに自分の想いを私に伝えるためだったのではないか。

シャイな彼の口からは聞けなかった、たくさんの愛の言葉を、アシュタールが代わって伝えてくれた。

本当は、桜が散る頃に終わるはずだった命を、セッションの日に引き延ばしてまで、彼が伝えたかった事。

 

「ずっと一緒にいる。」

 
あれ以来、彼は、部屋の天井や壁を鳴らして、私に自分の存在を知らせてくる。


彼の好きだった曲を一緒に聞いて、彼の写真をたくさん飾った。

 

毎日、涙が枯れるまで泣いた。

声を上げて泣いてると、彼の声が聞こえてきた。

「何で泣くの?」

 

最初は、気のせいだと思った。

彼の写真を眺めていると、

「オレはこっちだよ。」

 と、右側からまた声がした。

 

「ミッキーなの?」

 

返事の代わりに、暖かいものに包まれた気がした。

ミッキーは、光になった。

そして私の守護天使となり、そばに居続ける事にしたんだ。

アシュタールが、そう言ったように。

 

彼とのコンタクトは、あれ以来ずっと続いている。

いつか彼が行きたがっていた、シャスタの地に行こうと思っている。

 

 

第15章 守護天使


アシュタールのセッションの時間が迫っていた。
本来なら、こんな時に行くべきではないのかも知れなかった。

 

けれど、彼が望んでいるような気がして、私はその事を、彼の母親に伝えた。

そして時間をもらって、セッションに行く事にした。

 


少し遅れて到着した私を、テリーさんは快く迎えてくれた。

 

「私も夫を亡くしているので、あなたの痛みがよく分かります。」

そう言って、私の手を握った。

 

そして、
「アシュタールに会いたいですか?」
と訊ねた。

私は、「はい」と答えた。

 

テリーさんが、目を閉じ、ゆっくりとした呼吸を始めた。

 


「私の小さき者よ。美しい喜びを、あなたに与えます。」
アシュタールがやって来て、いつものように挨拶をした。

「美しい愛と成長の時です。

あなたのハートが宇宙の光に届く時です。

愛の光。

あなたを、エンジェルが存在する場所に引き上げてゆく光。

美しい光です。」

 

アシュタールは、少し間を置いてから、
「彼の魂は、私とともにホームに帰りました」
と言った。

 

その時、ガシャンと大きな音がして、六角堂の中の電気が点いた。

 

アシュタールは、フッフと笑った。
「これは、彼の仕業です。彼は、(私はここにいるよ)という、合図を送ってくれました。」


彼も来ている。
涙が溢れた。

 

「彼は、あなたとともに、ここに来てくれました。どうぞ、使ってください。」

アシュタールが、ティッシュの箱を私に差し出した。私は、ティッシュを取り、涙を拭いた。


「今日はまだ、あなたの声を聞いていません。」

アシュタールは、幼子を慰めるように言った。

 

「素晴らしい事ではないですか?

彼は今、幸せなんです。

彼はもう、苦しむ必要がなくなりました。

素晴らしい事だと思いませんか?

 

あなたの素晴らしい彼が、あなたに愛していると伝えてくださいと、私に言いました。

 

彼はあなたと私のそばにいて、全てを体験しています。彼はあなたと、ここにいられる事に感謝しています。

 

彼は、あなたとともにいる、と伝えています。今日、本当は彼もここに来たいと思っていました。そして、今あなたとここにいられることが出来ています。

 

彼は電気を点けて、あなたに自分の存在を証明してくれました。

 

そしてまた、あなたを愛していると伝えてきました。


彼はただ、別の場所に移動しただけです。

 

体から魂が抜けて、別の場所に移動する時、特に病気を持っていた場合、それをともに体験をした人は、とても近くにいる事になります。

 

病気の体から抜けていく。それは、その人にとって、とても重要な事になります。

 

自由になるのです。

とても素晴らしい事です。

彼は、あなたとともに歩んでゆきます。

彼は、それをあなたに伝えています。

 

彼はあなたに、自分がどれほどあなたを想っているのか知ってほしいと思っています。

 

彼は、あなたとともにいると言い続けています。」


アシュタールは、私が手に持っていたディバインクウォーツを指して尋ねた。

「これは、彼のですか?」

私は頷いた。

 

「あなたが彼の石を持っているという事は、彼にとって、とても重要な事です。」

 

それからアシュタールは、首から下げていた私の石と見比べて言った。

「あなたの石とよく似ています。

それは、あなた方2人が、常に近くにいるという事です。とても素晴らしい事です。そしてそれは、あなたにとっても美しい時間です。


宇宙は、彼がホームに戻ってきた事を、非常に喜んでいます。

 

でも、人間の感覚では、それは苦しい事です。ハートが痛めつけられる感じです。

あなたが、その痛みに気づくという事は、とても重要です。

そして、もう一つ重要なのは、そこで足を止めるのではなく、その痛みを持ちながら前に進むという事です。

 

あなたは、彼がいなくて寂しくなるでしょう。彼の事を想って悲しむでしょう。

 

でも、あなたは同時に気づくはずです。

素晴らしい記憶があるという事を。

 

そして、彼があなたとともにいるという事に気がつくでしょう。


あなたはまだ、若い。そして、これからとても素晴らしい人生を歩んでゆけるのです。

 

あなたが力強く自分の人生を生きてゆく事。あなたが自身の中に平和を見つける事が重要になってきます。

なぜなら、彼があなたに、そうしてほしいと願っているからです。

 

彼は、あなたがどれほど美しいかを、私に伝えてきます。

まるで美しい海風のようだと伝えてきます。

 

彼はあなたを愛しています。彼にとってあなたが最も大事だという事です。

 

なぜかというと、彼はあなたに永遠に続く愛を誓ったからです。

 

そして、彼はその約束を守ります。素晴らしい事です。理解出来ていますか?」

 
彼について聞きたい事がないかと聞かれ、私は、アシュタールに、彼が生まれてきた理由を訊ねた。


彼が以前、自分が何のために生きてるのか分からないと言っていたのを思い出したからだった。

「彼は、この世界により良い教師となるために生まれてきました。彼は教師です。彼は愛について教えていました。

 

癌というのは、彼が選んだレッスンのうちの一つです。

彼は、癌になる事によって、どうすれば強くいられるのか、どうやって自分の中の強さを保つのかという事を、あなたや、まわりにいる人たちに教えていました。

彼は、偉大な教師でした。

彼は多くの事を教えてくれました。

彼は多くの人に愛について教えてくれました。

宇宙の真実を教えてくれました。

彼はそのために生まれてきました。

そして変容を体験するために。

彼はその事について、あなたと話したはずです。

そして彼はあなたに愛を教えました。愛の情熱です。彼はそれを教えるために来ました。


あなたがた2人が最初にここに来た時、彼はちょうど診断を受けた頃だと思います。

そして、その後、素晴らしい時間を過ごしたはずです。奇跡を祈っていたはずです。

 

彼は、この世を離れる事が出来ないという事が分かったと思います。

彼は、離れるつもりもありません。

彼は、別の世界であなたを見守っています。

これは、とても重要な事です。

分かりますか?

彼はあなたにとって、守護天使のようなものです。」

 

私は、手の中の彼の石を見つめた。

ああ、だから彼の石は、天使の羽根という名前なんだ。

ハルミさんのセッションの時に現れた、金色の羽根を持ったミッキーの姿を思い出した。

 

「彼は、笑っています。

私の事を愛していてねと彼は言っていますし、あなたがそうする事も、彼は分かっています。」

 

涙がまた溢れてくる。


「彼は大丈夫ですよ。

天使が降りてきて、彼を連れて行きました。

あなたは、彼の魂が上がってゆくのを感じたはずです。

それは、素晴らしい事です。

そういう体験が出来る人は、そう多くはいません。とてもパワフルな経験です。

実際に私たちの肉体に魂があるという事を、経験出来た訳です。

美しい教えです。常に素晴らしい教えとなっています。

喜びや悲しみ、痛み、そして幸せの中に、その中に、すべての経験が詰まっています。美しい経験です。


彼はあなたのまわりにいます。

彼を感じてみてください。

いろんなサインを読み取ってください。

それがすべて、私はここにいるよというサインになります。

彼の事を想って、その石を手にする。

何か不思議な事が起こる。

それは、彼の仕業です。

そして、彼はあなたに話しかけています。

分かりますか?

あなたは大丈夫になるはずです。その事は、覚えておいてください。」


そしてアシュタールは、静かに手を合わせました。

「愛をあなたに届けます。ギフトと喜びを。

今日、彼は私とともにいて、彼は安全です。私は強調します。彼は、とてもよくやっています。

そして、あなたに感謝します。あなたの強さに感謝します。あなたがいつも、やっているように。あなたの愛の中で。あなたに祝福を。アンダンテ。」

第14章 奇跡

アシュタールセッション前夜、彼の体調が心配で、私は病院に泊まることにした。

 

前日の夜、一人でトイレに行こうとして、転んでから、右腕の自由が効かなくなっていた。

 

ここ1週間くらいで、彼はもう自分で立ち上がることも、ベッドから起き上がることすら出来なくなっていた。


背中の痛みと息苦しさに襲われ、夜もほとんど眠れていなかった。

彼が体を動かそうとする度に、起きて介助をする必要があった。

 

「もうお前がいないと、何にも出来ない体になっちゃったな。ほんの少し前までは、もっと動けたはずなのに。」

その事に、彼はショックを受けていた。

 

夜中に、何度もナースを呼んだ。
トイレの介助も、私1人では、背の高い彼の体重を支えきれなかった。

 

痛み止めを飲んでも、息苦しさは、いつまでたっても取れず、私は彼の体を温めたり、アロマの塗ったりと思いつく限りに試みた。


彼に必要なケアが、もう私の出来るレベルではなくなってきている様な気がして、私は絶望的な気持ちになっていた。

 

その時、暗い病室のベッドの上で、彼が絞り出すような声で言った。

「絶対に良くなる。絶対に。」

 

その言葉を聞いて、私は気づいた。

彼は、まだ希望を捨てていない。
私は、こんなに強い人を見た事がなかった。

 

息苦しさに耐えながら、彼は言った。

「どっかに、俺が治る方法があるはずだ。」

こんなに苦しいのに、光を見出そうとしている彼のひたむきな姿に、私は感動していた。

彼の回復を信じようと思った。

 


気がつくと、朝が来ていた。彼が、

「熱いレモンティーが飲みたい。」
と言った。


カップに2人分のレモンティーを作って、彼と飲んだ。

 

少し落ち着いてきた彼を見て、私は、一旦家に帰って着替えて来ると告げた。


家に帰ってシャワーを浴び、着替えてから、少し横になった。

ゆうべ寝ていなかった事もあり、うとうとまどろんでいた時、彼の電話から着信があった。


電話口は彼ではなく、ナースだった。

「1人で行っておいでって言ってます。そう伝えれば、分かるって。」

 

アシュタールセッションの事を言ってるんだと、すぐに分かった。

さすがに今日の外出は無理だろうと思った。

彼は自分の代わりに、私にセッションを受けさせようとしていた。

 

けれど、すぐにまた会えるのに、なぜわざわざ電話をかけてきただろう。

電話を切ってから、再び横になったものの、胸騒ぎがして、すぐにまた病院へ戻る事にした。

 


彼の病室に入ろうとする私を、看護師長が呼び止めた。


「ちょっと、いいですか?」

嫌な予感がした。


「彼が、痛み止めの注射を希望しています。ご家族の同意が必要なので、今、お母さんとご親戚に連絡して、来てもらっているところです。」

 

彼は、私が帰ってから、急に血圧が下がり始め、体内の酸素濃度も低い状態が続いていた。


病室に入ると、点滴を受けながら、酸素マスクをしている彼の姿が見えた。

「ルーシィ、遅いよ。ずっと待ってたんだ。」
彼は少し、甘えたように言った。

「ごめん。」


彼のそばには、常にナースが付き添うようになっていた。

 

しばらくして、彼の母親と親戚が到着した。

鹿児島から帰って来て以来、彼の母親にも紹介してもらい、家族のように大切にしてもらっていた。

 

私たちは、主治医のドクターから別室で話を聞くことになっていた。
ドクターは、モルヒネを使うようだった。

そして、言葉を選びながら言った。

 

「人によっては、このまま意識がなくなってしまう方もいます。万が一の事も考えられますので、覚悟をしておいてください。」

 

私は、納得出来なかった。

「本当に彼は、そんな注射を望んでいるんでしょうか?彼は治るつもりでいるんです。もしかしたら死ぬかも知れないような物を、打ってくれと言うはずがありません。」

「では、本人の前で聞いてみますか?一緒に来てください。」

ドクターは、私を連れて行き、彼の前で尋ねた。
彼は、息も絶え絶えの状態で、

「まだ打ってないの?早く打ってくれ。」

と言った。


私は、激しいショックを受けた。
けれど同時に、彼が望んでいるなら仕方がないと思った。

自分に処方された薬を、一つ一つネットで調べていた彼が、モルヒネを打つとどうなるのかくらい、知らないはずがなかった。


病気の痛みも息苦しさも、本人にしか分からないものだった。

だからこれ以上、私が抵抗する事が、彼の苦しみを長引かせるのだと悟った。


ただ彼は、決して諦めた訳ではなかった。

意識を保ったまま、目と指で合図して、私にしてほしい事を伝えてきた。


彼は、まだ生きる望みを捨てた訳ではなく、ただ、今の息苦しさを取り除いてほしいという一心で、モルヒネの注射を望んだのだと理解した。

 

モルヒネへの移行がうまくいけば、意識は朦朧とするものの、起きて話をするほど回復する人もいると、ドクターから聞いていた。

 

私は、奇跡を願った。
宇宙中の全ての光の存在に呼びかけ、彼を助けてくれるよう祈った。

 


けれど、もう彼の体力には、限界が来ているようだった。
モルヒネを使い始めて数時間後、彼の手は、すっかり冷たくなっていた。

体のあちこちには、血行障害が起き始めていた。

その彼の手がゆっくりと動き、私は、彼が何かを言おうとする気配を感じ取った。


私は、彼を仰向けに支えながら起こした。

ずっと酸素の吸入をしていたせいで、彼の唇はすっかり渇いてしまっていた。

 

私が、「お水飲む?」と尋ねると、彼はわずかに頷いた。


そして、ストローのついたペットボトルを彼の口元に持っていった。

けれど、彼は飲もうとはしなかった。

ストローを歯で噛んで、離さなくなった。

それまで虚ろだった彼の眼が、大きく見開き、
中空を見ていた。

彼は、その瞬間、何かを目で追っていた。

私は急いで、ストローを外して、酸素マスクを彼の口元に近づけた。

 

「お母さん、ミッキーが、息してない。」


私は、そばにいた彼の母親に告げた。
そして、ボタンを押してナースを呼んだ。

 

「お願い。息して!」


私は、必死で何度も彼を呼んだ。
彼は、私の呼びかけに応えるように、何度か息を吸おうとした。

けれども、徐々に目の色が失われていった。

 

その瞬間、私をとりまく世界が、止まってしまった。
彼はまるで、眠っているようだった。

本当に安やかな顔だった。

私は彼の心臓が止まっても、しばらくの間、彼の口元に酸素マスクを近づけたままだった。 


ドクターが来て、彼の死を告げた。

看護師長が、本当ならもっと早くこうなってもおかしくない状態だった、と言った。

 

彼の血圧を最後に測った看護師が、30しかなかった、と言った。

本来なら昏睡状態になる程なのに、彼は最後まで意識がしっかりしていた。

「こんな事、普通だったらあり得ないです。でも彼は、本当に頑張ってましたよ。きっと、彼女さんがいてくれたから、ここまで頑張れたんだと思います。」
彼女は、目を潤ませながら言った。

 

その時、私は悟った。

奇跡は起きていたんだ。

それも、毎日のように。

 

彼は、毎日、奇跡的に生きていた。

私に応えるために。

私のために。

 

桜は、もうすでに散ってしまって、青葉の季節になっていた。

第13章 桜の季節

やがて、桜の季節になった。

 

 

 彼は、ずっと前に自分が見た夢の話を始めた。

 

「夢の中でオレは、すでに歳を取っていて、隣には美人のアンドロイドのナースがいた。

そこは病院の個室で、桜が散っているのが見えてた。

自分がもし死ぬとしたら、そんなのが理想だ。あ。もしかして、あのアンドロイドって、ルーシィ?」

 

「そうかも。でもそんなの、まだずっと先の話だからね。」
と、私は答えた。

 

すると彼は、私に手のひらを見せた。


彼の右手の生命線の膨らみの途中には、灰色の点があった。

 

「これの意味を、前に教えてくれただろ?」

私は少し嫌な感じがして、すぐには答えなかった。

「たしか病気の印だったよな?」

私は、彼が何を言おうとしているのか察した。

 

「そうだけど。でも、前より薄くなってる。大丈夫だよ。」

「今だと思うんだ。」

 

腹水のせいで、彼の動作は鈍くなってきた。
「腹水が溜まると、余命は3ヶ月だって。ネットで調べたら、書いてあった。」
彼は、淡々と言った。

 
私は、すねた子供のように首を横に振った。

「大丈夫だよ。」
大丈夫、という言葉を、心の中で私は呪文のように繰り返していた。

 

「大丈夫。ここから良くなるんだから。ミッキーは治るんだから。」

 

私は、出来るだけ前向きに考えようと決めていた。

悪い想像をすれば、それが現実になってしまうのではないかと思い、すぐにイメージを削除することにしていた。

 

「絶対に諦めないって約束して。」

 

「諦めるも何も。オレの人生において、今がどういう意味なのかを理解すれば、人から見て諦めた様に見えてもオレにとっては今が最高。だから、そう言われると、違和感が湧く。」

 

私は、その言葉に救われた気がした。

 

「そっか。私も、今が一番幸せ。だって毎日会えるから。」

 

 

けれど現実に、彼の体は以前に比べて痩せてきた。

体力も徐々に衰えてきて、病室の中を歩くのがやっとの状態だった。

動くと息苦しさを訴えた。

食事をした後も、しばらく安静にする必要があった。

 

発熱が続くようになり、夜も眠れていないようだった。

体を冷やすと痛みが出るというので、熱湯で湯がいたタオルをビニール袋に入れて、幾つかを背中に当ててやった。

「あったかい。温泉に入ってる気分だ。」

と、彼は言った。

生姜パックもアロママッサージも、出来るだけ毎日施すようにしていた。

 

そうして1日の終わりに、彼は必ずこう言った。

「今日もありがとう。」


彼はよく、私の体調を心配していた。

 

仕事のある日には、午前中と夜の2回、休みの日は一日中、彼の病室に通っていた。

 

彼の事を最優先にしていたため、夜遅い仕事は断る事が多くなった。

休みの日も以前より増やして、出来るだけ彼の体のケアが出来るようにしていた。

 

仕事を減らした事で、経済的には苦しくなっていた。そんな私を、彼はいつも気にかけていた。


そしてある日、彼がいつになく、厳しい口調で言った。

「お前は、もっと勉強しなきゃな。」

それから、静かに続けた。

「この仕事で経営者としてやっていくには、世の中の常識的な事を、もっと知る必要がある。体についての知識も、もっと勉強しないと。

お客さんに聞かれて、答えられないようじゃ、そのお客さんは、もう来ないよ。

今までと違って、お前はこれから、自分の力で食べていかなきゃいけないんだぞ。」

 

私は、ショックを受けた。


毎日出来るだけ彼のケアをしたいという気持ちと、生活のために仕事をしなくてはならないという葛藤の中にいた。


彼と過ごせる時間が、後どれくらい残されているのか分からない中で、焦りと不安に押し潰されそうになり、彼のそばを離れる事が出来なくなっていた。

 

「何で、今そんな事いうの?」

私が、こぼれそうになる涙をこらえて訊ねた。


「お前に必要な事を教えるのが、俺の役目だと思ってる。」
と言った。そして、
「俺が言うことに、いちいち泣いてたら、これから大変だぞ?」
と言った。

 

「まだ泣いてない。」
その時の私は、少し感情的になっていた。
私は、口を尖らせて言い返した。

「今までいろんな事を後回しにしてきた。仕事の事も、自分の事も。もう少し仕事に時間を取りたいし、勉強だってしたいと思ってる。そうしないと、そろそろ生活も出来なくなるし。」

「遅いくらいだよ。」
と、彼は言った。

「本当なら、もっと早くそうすべきだった。お前は、俺にエネルギーを使い過ぎてる。俺は、お前を養うことは出来ないし、自分だって、いつ破産しなきゃならないか分からない状態なんだから。」

そして、最後に彼は静かに言った。


「愛と愛情は違うんだよ、ルーシィ。」

 

その時、ようやく気づいた。

言葉は厳しくても、これは彼なりの愛なんだ。

 

「分かってる。あなたに責任とってなんて、言わないよ。ここに来るのだって自分の判断で来てるんだし。

大丈夫だよ。」

 
その日、家に帰ってから私は、自分が感情に任せて彼に言ったことを後悔していた。

 

あの言い方はまるで、彼の存在が私の重荷になってるかのようだった。彼を傷つけてしまったのかもしれない。

 

翌朝、私は彼の病院に行く前に、ラインを送った。


「昨日、わかった事がある。

あなたが私にとって、元気の源だって事。

 

今日あれ持って行こうとか、あれやってあげなきゃって思うことで、私は力が湧いてくる。

 

そりゃ人間だから、私も時々体調悪くもなるし、虫の居所が悪い時もあるけど、それを自分のせいだと思わないでね。

いつもあなたの事を考えてる。

 

なんか面白い事があったら言ってやろうとか、
綺麗な景色を見たら、写メ撮って送ろうとか。


そんな独り言に気づいたのは、じつは、あなたが鹿児島の病院で意識朦朧の時。

 

ラインが返って来ないのに、伝えたい事がどんどんたまって。

 

自分がどんなに、常に意識の中で、そこにいないあなたと会話してるかって事に気づいたの。

 

だから、どんな事があっても、あなたを守りたいと思ってる。

あなたの方こそ、私を生かしてくれてる。」

 
メッセージを送った後で、私は改めて、自分の事を振った。


彼と一緒にいられるのが幸せだった。

私はそのために、多くを手放した。

大切な大切な息子も。

 

けれど、彼を選んだのは間違いではなかったと思っていた。

彼の回復を信じたかった。
でも、彼の体の変化を見ていると、辛くて仕方がなかった。

 

このまま彼がいなくなってしまったら、どうやって生きていけばいいのか、わからない。


私は、声を上げて泣いた。

しばらくの間、涙が溢れて止まらなかった。

 

私は、彼の病気の事で泣く事を、ずっと自分に禁じていた。

私が泣いてしまったら、彼がもっと辛い思いをする。

そう思って、絶対に泣かないと決めていた。

 

けれど、今日だけ自分に泣く事を許そうと思った。気が済むまで泣いて、彼の前では笑顔でいられるように。

 

彼が、同じように泣いているイメージが浮かんできた。

私の想像の中で、自分たちの運命を嘆くように、彼と抱き合って泣いた。

 


その日の夜、彼がぽつりと言った。

「俺、今朝、看護婦さんの前で号泣しちゃったよ。」

彼は、決まり悪そうに続けた。

「朝の検温の時、ツライ?って聞かれて。いつもはイタイ?って聞くのにさ。なぜか今日は、ツライ?だった。

答えようとしたら、涙が止まんなくなって。

だってさ、お前に言えないだろ。

治るって信じて、毎日3時間も4時間もマッサージしてくれてるのにさ、ツライなんて言える訳ないだろ?」

言いながら、彼は泣き顔になった。

 

「看護婦さんも、もらい泣きしてさ。2人で抱き合って泣いてたんだ。

でも途中から、何でオレ、この人と抱き合って泣いてんだろうって、、、」
笑った彼の目から、涙がこぼれた。

 

「今朝私も、同じ時に泣いてた。家で1人で号泣してた。その時イメージの中で、あなたと抱き合ってた。リンクしてたんだね、きっと。」

私も泣きながら言った。

 

「なんだ、そうか。お前も、ツライんじゃん。ずっと、無理してたんだよな?ごめんな。」

 

このまま彼を失ってしまったら、どうしよう。どうやって生きていけばいいのか、分からなくなる。

そんな不安を、ずっと押し殺して、彼は治るんだと自分に言い聞かせてきた。

カタルシスだ。」
と、彼は言った。

「きっと、これもお互いにとって必要だったんだ。」

 


数日後に、アシュタールのセッションを控えていた。2週間前、彼の強い希望で申し込んでいた。
けれど、彼の今の体力では、セッション会場に行くための外出が難しくなっていた。

第12章 天界の光

彼が、
「頭を洗って、髭を剃りたい。」
と言った。


病院の介護スタッフには頼まず、私に手伝って欲しいと彼は言った。

 

「いいよ。私これでも、昔美容室でアルバイトしてたから、シャンプーは上手だよ。髭はやった事ないけど。」

 

背の高い彼はひざまづいて、手洗い場のシンクに頭を垂れた。

腹水の大きなお腹では、長時間のうつ伏せが出来ない。

私は手早く、お湯で彼の頭を濡らしてから、シャンプーで洗い、流した。

 

その後、彼を座らせて、顔の下半分にジェルをつけた。

小さなスペースに、たくさんのパーツが集まっていて、しかも凹凸がある顔。

それだけでも大変なのに、彼の頰は痩せこけて、カミソリを当てるのは、思ったより難しかった。

「やっぱり、顔を切っちゃいそうで怖いよ。」

彼は笑って、自分で髭を剃った。

 

 

彼はいつも、「がんが自然に治る生き方」という本を、傍らに置いていた。

 

その本には、医療の常識を覆して、がんの余命宣告から奇跡的な寛解を遂げた人たちのストーリーがたくさん書いてあった。

 

彼は、どうすれば遺伝子の変容が起こるのかを考えていた。

 

次元上昇する事で、それらが簡単に起こり得るのであれば、自分の癌もいつか消すことが出来ると信じていた。

彼は、自分の五感を常に意識して、自分が心地いいと思う物だけを取り入れるようにしていた。

 

食事も少しずつ摂れるようになり、私は、彼が欲しがる物を買いに行った。

 

その日も、午後になると、
「あんぱん食べたい。

あと、ドリップコーヒー。」
と言った。

 

「昨日あんぱん食べてから、具合悪くなったでしょ?大丈夫?」

 

「少しなら平気だよ。こしあんのやつ。」

おやつをねだる時は、彼はまるで子供のようだった。


私が鹿児島に来て10日後。
3回めの血液検査で、ようやく退院が許された。
ちょうどその日は私の誕生日だった。

 

出発当日の朝まで、抗生剤の点滴を打っていた。
本来なら、退院もできない状態らしかった。
けれど、地元に帰る方が彼のためだと、担当のドクターの計らいで特別に下りた退院許可だった。


当日の朝、ホテルのロビーでニュースを見て、桜島の噴火を知った。

桜島の映像を目にして私は、ずっと昔に見た夢を思い出した。

 

夢の中に鹿児島の地図が逆さまに出てきた。

その形は、まるで2頭の龍が向かい合っているように見えて、桜島は、ちょうどメスのお腹にあたる場所だった。

 

その時、夢の中の人物が、
桜島が噴火するたびに龍が生まれるのだ」
と言った。

 

その夢の話が本当なら、その日生まれた龍は、私と誕生日が同じだった。


だとしたら、その龍はきっと彼の事を護ってくれるだろう、と思った。

 

 

鹿児島の病院からの帰り道、私たちは、彼にとって所縁のある熊本の弊立神宮に立ち寄る事にした。

 

そこは、宇宙から降臨した五色人の神を祀っているという、少し変わった神社で、彼に言わせると地球人の祖である宇宙人が祀られているらしかった。

 

弊立神宮に着く前、彼が急に「お神酒買わなきゃ」と言い出した。

大吟醸の3、4千円くらいのお酒」と言われ、近くのスーパーに買いに行った。


ところが、熊本の小さなスーパーの酒のコーナーには、ほとんど焼酎しかなく、日本酒は僅か3種類しかなかった。

そのうち、彼の言っていた大吟醸は一つだけで、それはまるで結納の時に持っていくような、朱色の箱に入った酒だった。

 

「これじゃ、まるで結婚の報告だね。」
と、彼が少し照れながら言った。

 

お参りをして、神主の元にお神酒を届けた。

参道を帰る道すがら、何処からともなく現れた黒猫が、私たちを途中まで見送ってくれた。

 

 

高知に帰って来てから、彼は緩和ケアに入院する事になった。

私は、病院に毎日のように通い、アロママッサージをした。

また、腹水を軽減するための生姜パックと里芋パスタという方法をネットで見つけ、彼に施した。

私は、そんな毎日を楽しいと思っていた。 彼と毎日一緒に居られることが、夢のようだった。


いつまでも、こんな日が続いてほしいと思っていた。


けれど彼の体は、少しずつ痩せて、調子の悪い日が続いた。

 

 
そんな中、彼が読んでいた「シャスタの地下都市テロスからの超伝言」という本の著者とパートナーが、高知に来るという事を知った。

 

2人はシャスタに住んでいて、日本人向けのガイドもしていた。

私たちがシャスタに行く時も、ガイドをお願いしようと思っていた人たちだった。

 

「今回はシャスタに行けなかったけど、シャスタの方から来てくれるみたいだよ」

 

と私は言った。彼も何かの縁を感じていたようでだった。

結局彼は、著者のハルミさんのセッションを受ける事になった。


セッション当日、私は彼の車椅子を押して、会場に行った。

彼の体調が気がかりだったため、特別に同席を許されて私も参加する事になっていた。

 

ハルミさんは、高次元の存在と繋がり、彼をセントジャーメインの紫色の炎で浄化した。

 

私はその間、ずっと目を閉じていた。

 

私の目の前の床の上で、のたうち回って苦しむ蒼い龍を見た。その龍は、彼だった。

龍が口から何かの塊を吐き出すと、それが私に向かって飛んできた。
私はとっさに、持っていた剣でそれを斬り落とした。

 

彼の体を左巻きの紫色の炎が包み、やがて炭になった彼の体が現れた。

よく見ると、その後ろには、黄金色に輝くもう1人の彼がいた。背中に羽根を持っていた。

炭になった彼の体は、天に向かって稲妻のように飛び去って行った。

 

その瞬間、感情が溢れ出した。

私は泣いていた。

なぜ泣くのか、理由は分からなかった。

その間中ずっと、宇宙語を話すハルミさんの声が聞こえていた。

懐かしいような、切ないような気持ちだった。

 


セッションが終わり、ふと周りに目をやって、驚いた。

ライトオブアシュタールが並んでいた。

 

「新作のディバインクウォーツですよ。今回の日本行きに間に合うように、ヨーコヤマグチさんが届けてくれたんです。」

パートナーのヒデさんが言った。

 

「やっぱり、これもアシュタール絡みだ。」

彼と私は、顔を見合わせた。

 

私たちが、ディバインクウォーツを手にするのは必然だった。

私は、ある石から目が離せなくなった。それは、「虹の女神」という名前の石だった。

 

彼もまた、自分が一番惹かれた石を選んだ。

彼の石の名前は、「エンジェルの羽根」だった。
その石を見た時、羽根というよりは、剣を想像した。

名前からは想像できないほどの強さと逞しさを、その石のエネルギーから感じられた。そして、言った。

 「きっと天使は天使でも、大天使のほうだね。」

 

ハルミさんのセッションの後、彼とイメージのシェアをした。
驚いた事に、彼が見たイメージと私が見たものは、同じ光景だった。

セントジャーメインの紫色の炎が、左巻きだった事。
燃え尽きて彼の体が炭になり、彼の本体が黄金色に輝いていた事。
そして、炭になった肉体が、天に昇っていった事。

けれど、ただ一つだけ、違った部分があった。

 

「炭になったオレの分身が、光の存在になったオレの方を振り返って、何とも言えない表情で見つめてきた。」

と、彼は言った。

「でもオレの分身は、自分がなぜそうなるのかを理解していたよ。」


私は、自分が見た蒼い龍の事を話した。


その龍は自分だと思う、と彼は言った。
「もし、その龍が吐き出したものが、俺の癌で、お前がそれを切り捨ててくれたのなら、治るのかもね。」

「そうだね。そうだといいな。」

 

そして彼は、言った。
「感謝してもしきれない。オレは、お前に生かされてるような気がする。お前が毎日マッサージして、オレに命を吹き込んでくれてる。もしこの癌が治ったら、それはお前のお陰だよ。」

 

アシュタールの石を手に入れてから、今までと何も変わらないのに、私たちは、なぜかいつもワクワクしていた。

 

彼はハルミさんのセッションの後、とても元気になっていた。車椅子が無くても、杖で歩ける程になり、私や医療関係者を驚かせた。

第11章 約束

病院に着くと、彼はベッドの上であぐらをかいて、本を読んでいた。

「シャスタの地下都市テロスからの超伝言」という本だった。

 

「迎えに来てくれたんだよね?

っていうか、ルーシィの助手席に乗って帰るイメージしか湧いてこないんだけど」

 

昨日までは、起き上がる事もままならなかったと、病室に入る前、ナースから聞いていた。

 

来る途中に電話で話した時は、全然呂律が回っていなかった。

でも思ったより元気そうに見えて、少し安心した。

一昨日は、ナースコールを使わずに一人で起き上がろうとして、転んで頭を打ったらしかった。
軽い怪我で済んだから良かったけれど、ナースたちからは、要注意人物扱いをされていたようだ。

 

「昨日までは、ナースのお姉さんたちが、スゴく優しくしてくれたのに、ルーシィが来てから急に冷たくなった。」
彼はわざと残念そうにぼやいた。

 

「とにかく無事で良かった。

ホント、一人だけテロスに行っちゃったんじゃないかと思ってた。」


「ごめんね。オレのせいで、シャスタ山行けなくなっちゃった。」

 

「いいよ。また元気になってから行けば。」

 

「さっき、看護師にお前との関係を聞かれた。恋人でもないし。ルーシィって、一体オレの何なの?」

 

彼は私との関係性を、周りにどう説明すればいいか、困っているようだった。

 

「こないだは、男女を超えた親友って言ってたよね。でも、私は何でもいいよ。」

 

彼が私の事を、「お前」と呼ぶのは初めてだった。

私が到着してからずっと、彼の心境の変化を感じていた。

 

私はその日から、彼の身の回りの世話をする事になった。

彼の退院許可が下りるまで、近くのホテルに泊まり、毎日彼の病室に通った。

 

私たちは、まるで何百年もの時を経て再会した恋人同士のように、同じ空間にいることが当たり前だった。

そして、長年連れ添った夫婦のように、言葉もなくお互いを理解した。

 

彼がぽつりと言った。

「オレたちのこと、はたから見たら恋人か何かに見えるみたいだ。恋人じゃないのに、そう見えるというのは、やっぱり今まで何度もそうだったんだから、仕方ないね。」

 

そして、笑った。
「これは、もう認めるしかないよな。」

 

これは、アシュタールや天使たちの計らいなのか。

 

けれどオペ以来、彼の体に、変化が起きていた。

 

腹水が溜まって、お腹が膨らみ、思うように体が動かせなくなった。

その上、食事もあまり摂れていなかった。

 

彼は、仰向けに寝る事も出来ず、苦しそうに起き上がると、前かがみの姿勢で言った。

「まるで5ヶ月の妊婦ってとこだ。妊娠する覚えなんかないのに、ねえ?」

そして自分のお腹をさすりながら、私に同意を求め、悪戯っぽく笑った。

私も彼に釣られて笑った。


「そういえば昨日の夜、また別の前世を思い出したんだ。」

 

彼は、アングロサクソン系のヨーロッパ人の前世で、反政府軍のリーダーだった時の事を話し始めた。

彼とその家族は、政府軍に捕らえられた。
政府軍は、彼の家族を殺し、その一部始終を彼に見せた。

その時の恐怖は、ずっと彼の中に残っていた。
その恐怖は、彼の魂に刻み込まれた。
それが元で、彼は今世でも決して家族は持たないと誓い、生まれて来たと言った。


「オレが家族を持つと、その家族は必ず不幸になる。
この話を今、お前にしたって事は、たぶんお前もその殺された家族の中にいたんじゃない?」

 

彼の前世の記憶の中で、私は幾度となく、彼のために殺される運命にあったようだった。

彼がずっと私との関わりを拒んでいたのは、私を不幸にしないためだったのだろうか?

 

「ここに来て良かった。もし来てなかったら、あなたに振られたと思い込んだままだった。」

 

彼はベッドの中から腕を伸ばして、私を呼んだ。
私が彼の手を握ると、彼もその手を握り返した。

 

「ルーシィは、とうとうオレの閉じてた心の扉を開いた。
どんなに拒否されても、お前は諦めなかった。

ありがとう。

この恩を、どうやって返せばいい?」

 

彼は、静かにそう言った。
目にはうっすらと涙が浮かんでいた。

 

「私は、あなたが生きててくれてるだけでいい。」

心からそう思っていた。
彼のそばにいられるだけで、充分幸せだった。

「どこかで、返したい。」

彼は、そう言うと、涙をこぼした。

 

「泣かないで。私がしたくてした事だから、お返しなんていらないよ。」

「何かの形で返したい。でも、返しようがないんだ。
こんな身体でオレは、お前にもう何もしてやれない。

お前は家庭を失って、仕事まで放り出して、こんな遠くまでオレのために来てくれたのに。

オレはお前のために、何が出来る?どうやって、この恩を返せばいい?」

 

彼は、自分の命がそう長くはないと感じているのだと悟った。

「どうせまた来世で会えるんでしょ?
その時でいい。

私の事なら、大丈夫。心配しないで。

だって私、今すごく幸せだよ。

毎日ミッキーのそばにいられて。
だからミッキーは、自分の体が回復する事だけ考えて。」

 

彼がこの世からいなくなるなんて、全く想像ができなかった。
けれどもし、前世で何度も一緒に生まれ変わっているなら、来世でも会えるはず、そう思った。

彼はようやく微笑んだ。
「分かった。じゃあ、そうするよ。」

 

ちょうどその時、消灯時間になった。

 

「もう帰らなくちゃ。」

「今日も、ありがとう。」

「うん。また明日の朝、来るから。何かあったら、ラインして。」

 

病院の自動扉を出ると、外は冷たい風が吹いていた。
見上げると、月が出ていた。

私は、白い息を吐きながら、今日一日また彼と居られたことに感謝した。

 

神様、お願いです。どうか彼を連れて行かないで。

まだ彼と一緒にいたい。
彼は私が、ずっと探し続けていたソウルメイトなんです。
ようやく巡り会えた、自分の魂の片割れ。

だから‥‥神様、お願いです。

そしてアシュタール、聞こえてますか?


奇跡を信じたかった。
彼の病気が治って、ずっと二人で生きてゆきたいと願った。

 

膵臓癌の5年生存率は、他のどんな癌よりも低いと知っていた。

彼の場合、手術で癌を取り除く事すら出来なかった。

それでも、生きて欲しいと願った。私の寿命と引き換えに、彼を生かしてくれるなら本望だった。

 

第10章 魂の伴侶

彼が鹿児島に経った数日後、私は再びアシュタールの個人セッションを受ける事になっていた。

 

私は、アシュタールに尋ねた。

「彼と私の間には、何か特別なものを感じるのですが、私たちは一体どういう関係なのでしょうか?」

アシュタールは、即座にこう言った。

「You are his wife」(あなたは彼の妻です)

そして、こう続けた。

「あなた方は、プレアデスで夫婦でした。その他、イギリス、フランス、エジプト、ペルー、オーストラリア、そしてレムリア、それぞれの時代で夫婦として過ごしました。」


そうなんだ、やっぱり。
私が探し続けていた人は、彼だったんだ。
そしてプレアデスでアシュタールを出迎えた時、彼の隣にいたサマンサは、私だ。

 

驚きはなかった。

むしろ、腑に落ちた、という感覚だった。

 

私は最初にアシュタールに会った時、

「あなたはずっと、ソウルメイトを探し続けています」と言われたのを思い出した。

 

その通りだった。私は、自分の魂の片割れがどこかにいると信じていた。
その相手は、自分と共通の何かを持つ人だと感じていた。

結婚した相手がそうではないと気づいてからも、ずっとずっと心のどこかで探し続けていた。

 
そのセッションを私が受けていた頃、彼は移動の車の中だった。

その日は珍しく、彼がフェイスブックに画像を投稿していた。

それは、車の走行距離のメーターを写したものだった。

「222222」
2ばかりが並んだ画像。

私は、エンジェルナンバーで数字の意味を調べてみた。
2が6個並んでいる数字の意味。

 

そこには、こう書かれていた。

「恋愛において、ソウルメイト、パートナーと完全に統合された愛情、魂で結ばれた愛情を表わす高貴なスピリチュアルナンバーです。」

 

アシュタールか天使が、また悪戯をしたのかもしれない、と思った。

私は、「いいね」をクリックした。

ちょうど私の「いいね」が22件めにカウントされた。


私は、アシュタールのセッションの後、彼に前世で夫婦だった事があるらしいとラインで伝えた。
すると、彼はこう言った。

「マーガレットはそうだろうね。でもルーシィとは、恋人や夫婦にはなれない。」

 

その言葉を聞いて、私はまた振られた気分になった。
私が傷ついてる雰囲気を悟ったのか、彼は続けた。

「ルーシィは、あたかも当たり前のように俺のオーラの中に入ってくる。

かと言って、厚かましさとか熱血とか、侵食とか、無理やりとかはなく、本当に自然にいとも簡単で。

いつからと言われても、気づいた時にはそうなっていた。大きな衝撃もなく、なんじゃコリャって感じ。」

 

「オーラが混ざるって、どういう事なの?」

 

「わからない。今までこんな風にオーラが混ざる相手と過ごしたことがないから。」

 

「ふうん。」

 

「ただ、過去がどうであれ、明日生きてるかわからない命なのに、恋愛とか、まともに考えられない。今生きてることで精一杯なんだ。」


彼は、ずっと1人で闘っていた。

そんな彼に、何も期待してはいけないんだと改めて思った。

その上で、それでも彼のそばにいたいと思うなら、それは自分がそう望んでいるからで、やりたくてやってることなんだと自分に言い聞かせた。

「別にそれでもいいよ。でも、自分で全部背負い込まないで、しんどい時は手伝うから。何でも言ってね。」

「ありがとう。」


彼とは、よく超常的な話をした。
宇宙のこと、次元の違う世界のこと、闇の世界のことも。
彼は、一体どこでそんな知識を仕入れてきたのか、いろいろ知っていて、いつまでも話題が尽なかった。


彼は、スピリチュアルの聖地であるシャスタに行きたいと言い始めた。

理由を尋ねると、シャスタという音の響きが気になる、と答えた。

 

「シャスタ山の上空では、アシュタールの船が時々見えるらしいよ。あの山の上には、プレアデスのポータルもあるんだって」

 

私が最近読んだ本で得た情報を、知ったかぶりでいうと、彼は興味深々だった。

 

「結局、これもアシュタール絡みなんだな。」

彼は、まるで自分たちの周りに見えない存在がいて、どこかに導こうとしている様に感じると言った。


やがて彼は、具体的にシャスタ行きの計画を立てるようになった。

 

「ルーシィが行かなくても、オレ一人でも行くけど、どうする?」

「一人で行かせられる訳ないでしょ。こうなったら、車椅子押してでも行くから。」

 

彼がネットで、安い航空券を探して手配した。
私もパスポートとESTAの申請をして、後はその日を待つだけとなった。

 

それから1週間も経たないうちに、彼の身体に黄疸の症状が見つかった。
胆管が炎症を起こして、癒着しているのが原因だった。

腹痛が今までにないほど酷く、いつも飲んでいる痛み止めが全く効かないレベルだった。その日は、夕方からオペをするはずだった。

 

「奇跡が起こるよう願って。」


いつになく心細い思いを伝えてくる彼に、胸が痛んだ。

彼とのラインのやり取りは、彼が手術室に入る直前まで続いた。

 

「麻酔から覚めたら、連絡ください」


そう送ったメッセージは、それから2日経っても既読にすらならなかった。

電話をかけても繋がらず、連絡の取りようがなくなった。

 

入院先の病院に連絡を入れても、家族でない者に病状を教えるわけにはいかないからと、取り合ってもらえなかった。

 

彼は意識のないまま、眠り続けているのかもしれない。
あるいは、危篤な状態なのかもしれない。
手術が上手くいったのかどうかも、知る術がなかった。

 

私は、改めて彼を何も知らない事に気づいた。
彼の家族の連絡先も、彼の今後も、私は何一つ知らされていなかった。

彼の世界の中に占める私の領域など、ほぼ無いに等しいのだと。

 

悪い想像をしないよう、なるべく普通に生活する事にした。でも、夜は眠れなかった。

 

度々ラインを確認してみても、彼からの返信はなかった。

 

返信は返って来ないのに、彼に伝えたい言葉がどんどんたまっていった。

 

彼の入院先は、車とフェリーで、飛ばしても丸1日かかる場所にあった。

仕事もあるし、行ける訳なかった。


けれどもし、このまま彼に万が一の事があったら、と考えると、仕事に手がつかなくなり、ミスが多くなった。

 

「どうかしたの?昨日から、心ここに在らずだよ?
何かあったの?」

 

普段仲のいい同僚が、心配して声を掛けてくれた。
私は、彼女に一部始終を話した。

 

「そっか。大変だね。
一人暮らし始めたばかりで、生活も仕事も大事だけど、
10年経って振り返った時、後悔しない選択をして。」

彼女は、そう言って微笑んだ。
その言葉に、背中を押された。

 

その時、天使のカードの絵柄が、私の脳裏に浮かんだ。
それは、「Action 行動する」というカードだった。

 

気がつくと、いつも彼の事を考えていた。
私は、やっぱり彼の事を愛している。
恋人にはなれないと、何度言われても。

 

そうだ。行ってみよう。

彼の元へ。

 

たとえ彼に会わせて貰えなくても、無駄足になったとしても、彼の安否くらいは分かるはずだ。

 

その時の私にとっては、まるで彼のすべてを見届けることが、使命であるかのように思えた。

 


旅立ちを決めた夜、私は天使にお願いした。

「私のすべて彼に捧げます。もし必要なら、私の寿命が短くなってもいい。だから、どうか彼を助けてください。」


出発当日の朝、私は目覚めるなり、スマホを取って開いた。

彼からのメッセージが、来ているかもしれない、と思った。

 

その手の中で、スマホが小さく振動した。

ちょうど、メッセージが届いた。

彼からだった。

 

「オペで時間感覚なくて

わけのわからない状態だった」

 

生きてた!
彼はちゃんと生きてる。

 

「動けない。」

 

「休みもらって、鹿児島行く事にしたよ。」

 

「迎えにくる
ならドクターいうkど」

 

麻酔のせいで意識が朦朧としているのか、送ってくる文字は時々、文章になっていなかった。

 

私がどれほど心配したのか知るはずもなく、彼はおぼつかない指でメッセージを送ってきた。

 

2度に渡るオペと、麻酔の副作用、いろいろな要因が重なって、彼は歩けなくなるほど体力を消耗していた。

 

「航空機キャンセrした。」

 

「シャスタは、またにしよう。今は身体が大事。」


私は支度をして、彼を迎えに行くため、鹿児島の病院に向かって、車を飛ばした。

第9章 神託

夏が終わり、金木犀が香る季節になった頃、彼はもう一度、鹿児島に温熱療法を受けに行く事を決めた。

1度目の鹿児島行きを聞かされた時は、彼の回復を応援する気持ちで送り出せたのに、今回は、素直にそうなれない自分がいた。
 
もしかしたら、このまま彼に会えなくなるかもしれない。
そんな不安が心のシミとなって、黒く影を落としていた。
 
「鹿児島に行く前に、もう一度会っておきたい」 と、メッセージを送ると、
「店に行くよ。」と返ってきた。


その日の彼は、ラフなスウェット姿だった。
もうしばらく、スーツは着ていなかった。
体重が落ちて、サイズが合わなくなっていたからだ。最近は、仕事も休んでいるようだった。
 
彼は、出会った頃より随分と痩せた体を見せながら、 「どう?ちょっとモデルみたいで、かっこいいだろ?」 と、心配する私を笑わせた。


マッサージは、痛みのために長時間のうつ伏せが出来なくなり、常に体勢を変えながら施術するのが当たり前になっていた。
 
その日は、ヤングリビングの原液で使えるアロマを持って来て、背中に塗ってほしいと言った。
彼のお気に入りは、セイクレッドフランキンセンスだった。 その精油は、彼の痛みを緩和する事が出来た。他にもラベンダーをよく使っていた。
 
脊柱脇に精油を落として、指で痛むポイントを指圧するやり方を見つけた。 そのやり方だと、うつ伏せでなくても出来た。
 
彼はまるで、自分の体を使って、アロマの効能や新しいやり方を私に教えてくれているようでもあった。
 
 
 
その頃、再びアシュタールが高知にやってくることになった。

彼は、ちょうど鹿児島行きと重なっていた事もあって、今回はセッションを受けられなかった。
その代わり、
「アシュタールによろしく言っといて」
と笑った。

彼が前回のセッションで、アシュタールからどんなメッセージをもらったのか、詳しく尋ねた事がなかった私は、その時、初めて聞いてみた。

「オレ、プレアデス人だったらしい。それに、スターシードだって。記憶ないけど。」
 
「へえ。そうなんだ。私もプレアデスから来たんだって、アシュタールが言ってた。
もしかしたら、その当時から知り合いだったのかな?」
 
彼は初めてプレアデスにアシュタールが来た時、出迎えたうちの1人だった。

彼は最初、アシュタールを海賊だと勘違いして、高圧的な態度をとっていたらしい。
 
アシュタールは、その時の彼を「とても偉そうだった」と表現したようだった。
 
彼は、アシュタールの宇宙船を操縦させろと言い、それからはアシュタールの船の良いエンジニアになった。
 
アシュタールを出迎えたもう1人は女性で、アシュタールは彼女の事を「サマンサ」と呼んでいた。
「それ、私だったら笑うよね」

私が冗談で言うと、彼は肩をすくめた。
 
「さあね。そこは記憶ないから、何とも言えない。」
 
そして急に、声のトーンを落とした。

「考えてみたら不思議だよね。
ルーシィに出会ってから、すぐに癌が見つかった。
前世からの縁とはいえ、ルーシィのサポートには、本当に感謝してるよ。
 
でも、オレたちの事を、誰が理解できる?
側から見たら、誤解されかねない。
だから前は、人目をすごく気にしてた。
でも、もう誰にどう思われても、構わない。
事実、オレたちの間にやましい事は、何もない訳だし。」
 
「私は別に、気にしないけど。」
 
彼は微笑んだ。
 
「ルーシィは、男女を超えた親友だ。」
 
そう言ってから、ゆっくりと立ち上がった。
 
「ありがとう。おかげで楽になった。もしかして、この調子で治るんじゃない?じゃあ今日はこれで。帰って荷造りしないとだ。」
 
「うん。じゃあ、気をつけて。」
別れの時、私は笑顔でいようと決めていた。
 
「また会えるから。」
彼が言った。
 
帰ろうとする彼の背に、私は思いを振り絞るように言った。
 
「ねえ、ミッキー、一つお願いがあるの。」

「なに?」

「ハグしてもいい?」

彼は、少し考えてから、
「ルーシィのお願いなら、断れないな。」
と言った。

そして、両手を大きく広げた。

私は、彼のすべてを包むように、そっと抱き締めた。
彼の上着のフリース地が、ふんわりと頰に触れた。

彼の体温、
肌の感触、
声、
匂い、
心臓の鼓動、

それらすべてを、自分のオーラに刻み付けるように。
 
その時、彼のハートが閉じているのを感じた。
なぜだろう?
彼は、何を隠そうとしてるんだろう?
 

前回の鹿児島行きの時よりも、私の心は明らかに揺れていた。
彼の体の調子が、どんどん悪くなっていると肌で感じていた。
 
彼を失いたくなかった。
このまま、何も出来ずに終わるのだろうか?
もし、彼が二度と帰って来なかったら?
不安で仕方なかった。
 
眠れない夜を過ごしていた。
その時、部屋の棚の上にあるカードが目に留まった。

そのカードは、「神代の言の葉」という少し変わったカードで、今まで使い方がわからず、ほとんど引いた事のないカードだった。

私は、引き寄せられるように、カードの箱を手に取り、蓋を開いた。
 
開いたカードは、弟橘比売命(おとたちばなひめのみこと)のカードだった。

この女神は日本武尊の妻で、彼の舟を荒波が遮り、旅の障害となった時、自ら海に入り、その海を沈めたと言われていた。


「魂は磨かなければ朽ちる

ただ待っておっても役目は素通りする

本気で名乗りをあげよ

本気を出して生きてみよ

その者が本気を出さなければ、その魂、神からは見えぬ」
 
その女神からのメッセージは、深く私の心に刺さった。

命懸けで生きている彼。

それを支えるつもりなら、中途半端な気持ちではダメなんだ。

今までの私は、どこか逃げ道を作っていたのかもしれない。

夫との関係をきちんと清算して、自分の足でちゃんと立てる状態でなければ、彼の事を助ける事などできない。

もう迷いはなかった。
夫と別れ、家を出る覚悟を決めた。

たとえ、この選択が間違っていたとしても、絶対に後悔はしない。
誰のせいにもしない。
全部、自分で決めた事だ。
 
夫との最後の話し合いの後、お互いの判子を押した。夫は今更、私を引き止める訳でもなく、離婚を早めた理由も尋ねなかった。
 
 
彼は私が離婚した事を、どう受け止めたのだろう?
 
「まだ、早かったんじゃない?」
 
一行だけの返信。
ライン上のやり取りだけでは、彼の感情までは読み取れなかった。
 

翌日、何の前触れもなしに、彼がスーツで店に現れた。
オーダーしていた新しいスーツが、届いたようだった。

「今日は、お願いがあってきたんだ。」

彼は、仕事の書類をカウンターの上に広げた。

「簡単なアンケートなんだけど、書いてくれないかな?一応、ノルマがあってさ。鹿児島に発つ前に、いろいろ片付けないといけない仕事もあって、今日は久々に出勤した。」

私は、思いがけない彼の訪問に、少し驚いた。

明日から長期の療養に入り、鹿児島に行く予定だった。もうしばらく会えないと思って諦めていたのに。

「いいよ。ちょうど、いいオイルが手に入ったから、あげるよ。これ、試してみて。消化器の調子を良くするブレンド。」

私は、アンケートを書きながら、彼にプレゼントする精油をカウンターの上に置いた。

「ありがとう。助かった。じゃあ。」
彼は、アンケートを受け取り、店を出て行った。

見送った後で、さっき渡したはずの精油が、まだカウンターの上にある事に気づいた。

まだ追いかければ間に合うはずだ。

店を出て、彼がいつも車を止める地下の駐車場の方に走った。

地下に降りると、彼の背中が遠くに見えた。

「待って。忘れ物!」
私が大声で叫ぶと、声が反響した。彼がこちらを振り返った。

走って息を切らしている私を、彼は包み込むような笑顔で迎えてくれた。
「あ。ほんとだ。せっかく貰ったのに、置いて帰るとこだった。」

精油を手渡すと、彼は
「なんか、ドラマチック」
と言って笑った。そして、
「わざわざ、ありがとう」
と言って手を上げ、去っていった。

私は、彼の後姿を見送りながら、
「いってらっしゃい。気をつけて」
と言った。

ここで泣いてはいけない、と思った。
私が笑顔で見送る事を、彼が望んでいるのだから。

第8章 天使の悪戯

 私は、完全に自己嫌悪に陥っていた。

 

その時、アシュタールに言われた言葉が、ふと蘇った。
「あなたの子供は、大丈夫です。」

 

自分の部屋の本棚に立てかけてある、天使のオラクルカードが目に留まった。

 

私はカードに手を伸ばし、天使に訊ねた。

 

「彼と私は、何のために出会ったの?」

 

カードを1枚選び、裏返すと、それは「Wedding」のカードだった。

 

結婚?
どういう意味?

私は、天使の言いたい事が分からなかった。


一度カードを戻してから切り直し、再び引いた。

今度もまた同じ、「結婚」のカードだった。

 

私と彼が結婚する?

ある訳ない。

 

以前彼に「結婚はしないの?」と聞いた事があった。
彼は肩をすくめて冗談っぽく、こう答えた。
「結婚恐怖症なんだ。」

 

彼の両親は、彼が高校生だった時に離婚していた。その時のトラウマがあると言った。

トラウマについて詳しく尋ねた事はなかった。
聞いて欲しくない部分なのか、話の流れがそうなって来ると、彼のオーラがブロックするのが分かったからだ。

 

それに彼は、自分が病気になってからは、恋愛すらも考えられないと言っていた。

 

私は、もう一度続けてカードを引いてみた。

「Action」行動する

 

天使たちは、私が彼をサポートする事を後押ししているのだろうか?

 

結局私は、これは単に私の願望がカードに現れただけに違いないと結論づけ、カードを仕舞った。

 


そんな中、彼は陶板浴という民間療法を見つけ、県外に通うようになっていた。

 

仕事の合間を見つけては通い、多い時は、週に2、3回行くこともあった。

陶板浴は癌に効果があるだけでなく、他の慢性的な肩コリや腰痛にも効果があり、さらに肌を綺麗にしてくれるという事を聞いて、私は彼に、自分も一緒について行く事を提案した。

 

「2人で行けば、高速料金とガソリン代、ワリカンで行けるから、いいでしょ?」
そう言って、彼を納得させた。

 

本当は、いつ痛みに襲われるかわからない状態の彼が、1人で運転して県外まで行く事が心配だった。

 

先日も、運転中に具合が悪くなり、パーキングで数時間休んでから、夜中までかかってようやく帰って来たと聞かされていた。


次の週、初めてのドライブで、私は自分の好きだったアイリッシュダンスの曲をかけた。

すると、彼は陽気になって、運転中にも関わらず、踊る振りを始めた。

そして、急にまた甦った前世の記憶について話し出した。

「そう、足をこうやって踊るんだ。俺が踊ってるのを、ずっと笑いながら見てる女の子がいて、そう、今のルーシィみたいに。

いや、名前はルーシィじゃない。
何だろう。
ああ、マーガレットだ。
鼻のとこにソバカスがいっぱいあって、髪の毛を三つ編みにしてる!」

彼は、少年のように私をからかって、笑い始めた。

「なんか、やだな。マーガレットって、すごく田舎の娘みたいじゃなかった?」
「そう!当たってる時って、やな感じがするんもんだ。
でも、マーガレットはお姫さまなんだ。

俺の方は貴族じゃない気がする。
俺はマーガレットの気を引こうとして、踊り続けるんだ。」

 

前世の私は、彼の目に、どう映っていたんだろう。


陶板浴の施設まで、車で1時間ちょっとのドライブだった。

 

彼は、出来るだけ効果を上げるために、20分~40分を2回入る事にしていた。

続けて入ると身体への負担が大きいために、1回目と2回目の間に3時間の休憩を入れる必要があった。

 

1回目の陶板浴を終えてから、近所の自然食レストランで昼食をとった。

 

頓服で飲んでいる痛み止めの副作用で、最近、味覚が敏感になった、と彼は言った。

味の濃いものは一切受け付けなくなったため、出来るだけ身体にいいものや、味の薄いものをとるように心がけていた。

 

こんな店が地元にもあればいいのに、と彼は言った。
「自分で作ればいいんじゃない?」


私が言うと、彼はのんびりと答えた。
「そうだな。高知に陶板浴とラドン温泉と自然食レストランの複合施設でも作ろうか。」

 

彼は、仕事で成功して、人のためになる事をしたいと望んでいた。

 

けれど、病気が見つかった頃から、何のために生きているのか分からなくなってしまっていた。
仕事が思うように出来ないストレスも、体に影響しているようだった。

その上、母親の介護も、体力が落ちてきた体で続けるのは難しかった。

 

「最近は、ワクワクする事もない。前は、もっと違ってた。
でも、この病気になってからは、ワクワクする事もなくなった」

 

私が、何を言ってあげればいいのか分からず、黙り込んだのを見て、彼は言った。

 

「ごめんね。楽しい話が出来なくて。」

私は首を横に振った。
たくさん思いはあるのに、言葉には出来なかった。

 

 

そんなある日。

「最近、痛みで眠れない」と、彼からラインが来た。


日に2回の痛み止めだけでは足りず、麻薬の頓服を処方してもらって飲む事にしたと伝えて来た。

 

彼は病院の抗がん剤治療を断って以来、抗がん作用のあるサプリメントや、健康食品を買い込んでは摂る、数値を見て効果がなければ、また次を試すという事を繰り返していた。

 

私は、彼が癌になってからというもの、彼の病気に関する情報をネットで調べ、本を読みあさった。
彼も自分の病気に関しては調べ尽くしていた。
2人で情報交換をする事も多くなった。

 

けれど、そんな努力や思いとは裏腹に、彼の病状は、徐々に悪化しているように思えた。

 

 

結果が出ずに落ち込む彼を、励ますつもりで私が言った言葉が、時にはかえって傷つける事もあった。

 

「数値に一喜一憂しないで。それより今は、前向きに考えようよ。」

 

「前向き?この状況で、どうすれば前向きになれるの?」


常に、癌性の激痛に襲われるかもしれない恐怖が、少しずつ彼の理性を削り取り、痛みを理解出来ない私との、心の距離を生んでいるような気がした。

 

ひとたびスイッチが入ってしまうと、彼は無口になり、自分の周りから全てを排除し、独りで閉じこもった。

 

「ごめんなさい。また、おせっかいしちゃったね。」

送ったメッセージは、既読になっても返事が来なかった。

 

それが、私に余計な負担をかけまいとする、彼なりの最大限の優しさである事は分かっていた。

 

しばらく時間をおいて、感情を整理してから、彼からの返事は来た。

 

「謝る事はないよ。
気持ちは分かってるつもりだし、逆の立場でも似た事言うから。」

 

彼のそういう所は、とても尊敬出来た。

 

第7章 選択肢

彼は入院生活の一部始終をラインでこまめに伝えてきた。
ナースとのやり取り、外出先であった事など、とりとめのない事を話すようになった。

その日食べた物、外出先で見つけた風景の画像を送り合った。


退屈な入院生活を埋めるように、それは毎日続き、私は、彼からの返信を待ちわびた。

 

彼はありとあらゆる癌に効くと言われるものを試していた。
サプリの箱が、部屋に高く積み上げてあるところや、1日に飲む十数個のサプリを並べてある画像を送ってくる事もあった。
他にも、ラドン温泉やプラズマ療法、テラヘルツなど、癌を治すためにネットで情報を集めて、仕事の合間をぬっては、それらを受けるために、入院中もよく外出して飛び回っていた。

 

そして、2ヶ月が経ち、彼が治療を終えて帰ってくることになった。

 

久しぶりに会った彼は、わざと明るく振舞っているように見えた。


「元気そうだね。」

私が言うと、彼は少し首を傾げた。


「ありがとう。そう言ってくれる人、あまりいないんだ。仲が良かった人たちもみんなオレを腫れ物に触るみたいに扱う。でもルーシィには、いつも元気をもらってる。」

彼は、以前はよくしていたSNSへの投稿も、ほとんどしなくなっていた。
彼は、友人の態度の変化に敏感になり、つき合いも自ら遠ざけてしまっているようだった。
仕事の同僚には、ほとんど病気の事を話していなかった。

2カ月の治療を終えたにも関わらず、数値は以前よりも良くなかった。

 

精密検査の結果が、よっぽどショックだったのか、「最近、笑えなくなった」と彼が言った。
 
その日は、気持ちが前向きになれるように、わざと冗談を言い合った。

 

 彼は鹿児島から帰ってきても、相変わらず病気が見つかる前と同じ生活を続けた。

その上、自分の仕事に対して、とても誇りを持っていた。そして、人一倍強い責任感も持っていた。
病気になったからといって、全てを放り出して自分の治療に専念するという考えは、彼には、なかった。
母親の介護、掃除や洗濯、生活のために痛み止めを飲みながら、仕事も続けていた。

そんな彼を、少しでも元気づけたいと思い、ちょうど彼の誕生日にプレゼントを用意した。
リザードフラワーをあしらった写真立てだった。
 
「これ、なに?」
「だって、誕生日でしょ?」
「なんで、知ってんの?ま、いいか。ありがとう」
彼は、照れ臭そうに言った。

「たぶん、3週間ぶりくらいに笑った。あ、後ろのやつが、はしゃいでる。オレが人に物を貰うところを、初めて見たって。」
 
彼の後ろには、相変わらず見えない何者かがいて、時々彼に話かけていた。
 
「そういえば、仕事でもプライベートでも、人にあげるばかりで、貰ったのって初めてだ。」

 

彼は笑うと、子供みたいな顔になった。

 

「いつも不思議に思う。どうしてなの?
出会ってからまだ日も浅いのに、こんな風に親身になってくれる人って、そういないと思うんだ。オレはルーシィに、たいした事してないのに。」

 

彼の薄い茶色の目が、まっすぐにこちらを見ていた。

 

「たぶん、前世で‥‥。」

「前世?」

「そう、前世で私、ミッキーに、いろいろとお世話になってるんじゃないかな?
ほら、前に言ってたでしょ?
私たちって家族だったり、友達だった事もあったって。
だから今世では、恩返ししなきゃいけない気がするんだよね。」

「オレのせいで殺された事もあるのに?

まあでも。確かに僕らって何度も一緒に生まれ変わってるのかもしれない。家族だったり、夫婦だった時もある。」
 「夫婦?」

「そう。でもルーシィは、ちょっと違うかな。ルーシィは、仲間だ。」

「そっか。」

 

私も、彼とはソウルメイトだという確信があった。

けれど彼は、私を女性として見てはいなかった。

分かり切っていたはずなのに、私はその言葉に思わず傷ついてしまった。

 

このまま、時間が止まってくれたらいい。

何も起こらなければいい。
彼の病気の進行も止めて。


ずっとそばにいたいと、願ってはいけないのだろうか。
なぜ、彼が癌にならなければならなかったのだろう。
なぜ、彼なのだろう。

 


その日の終わり、家族が寝静まった静寂の中で、涙がとめどなく溢れ、どうしようもなかった。

 

眠っている息子。布団をかけ直す時、息子の温もりと匂いが、自分が母である事を思い出させた。

息子は、中学生になったばかりだった。
同い年の子供たちよりも、のんびり屋で気が優しく、まだ幼さが残る。

 

夫は、別れるなら息子は自分が引き取ると言っていた。
 だからせめて、この子が中学を卒業するまでは一緒にいたかった。けれど。


 胸が痛んで、心が2つに張り裂けそうだった。

 

彼は今、独りで病気と向き合っている。

そんな彼を、放っておく事が出来なかった。

 彼との精神的な関係性が深まるにつれ、私は重い罪悪感を抱えるようになっていた。

 

彼を助けたいと思う気持ちと、家族を大切に思う気持ちの狭間で、ただ運命の波に翻弄される海の藻屑のようだった。

 

幾つになっても心許ない息子を、自ら手放すのか。

癌で苦しむ彼を脇目に、自分は守られた環境で、幸せなフリをして過ごすのか。

どちらを選んでも、私は自分を許せないような気がした。

 

 

第6章 分岐点

その余韻は、翌週まで続いた。

私は彼に連絡をとり、見舞いに行く事にした。レイキヒーリングをするためだった。


病院のベッドの上で彼は、ジーンズと白のタートルネックを着て、あぐらをかいていた。

 

「入院患者らしくないね。」

「患者らしくしなきゃいけない?あの病院の服が、どうも苦手でね。」

 

いつもは整髪料で後ろに撫でつけている前髪も、今日はふんわりと額にかかっていた。

 

スーツ姿の彼とは、別人のようだった。何となく麗しく、女性っぽい感じすらした。

 

いつもよりリラックスした雰囲気で、彼はベッドに横になった。

レイキヒーリングを始めると、

「心地いい」

と言った。

彼はエネルギーが身体のどこから入って、どこに抜けていくかを解説した。

 

彼は、とてもエネルギーに敏感な体質だった。

彼が病院の患者着を着ないのも、前にそれを着た患者の気が残っていて、影響を受けるからだった。

マッサージを受ける時も、施術者との気の相性が良くなければ、かえって具合が悪くなる程だった。
幸い、私の気は彼と相性が良かったらしく、レイキをしたいという申し出も喜んでくれていた。

 

「入院したばかりなんだけど、じつは明日、退院することになったんだ。抗がん剤治療は、僕には合わない。」

 

敏感体質の彼は、副作用が普通の人よりひどく出るようだった。

「一度だけ試したけど、癌で死ぬより辛い副作用だった。」

彼は、私を笑わそうとして、顔をしかめた。

 

多くの書籍には、抗ガン剤と放射線治療のもたらす副作用の危険性を説いていた。
そして彼が、その治療法をやめる決断をしたのは、正しい選択だったのではないかと思った。
彼は、よりナチュラルな治療法を模索する事になった。

 

その数日後、彼からメッセージが届いた。

「急だけど、来週から鹿児島に行きます。

他の方法を探してたら、鹿児島に温熱療法ってのがあって、入院も出来る。」

「そうなんですね。いい治療法見つかって良かったです。でも会えなくなるのは、ちょっと寂しいな。」

私が返信すると、

「いつでもラインで話せるよ。」

と彼が返して来た。


彼と過ごす時間が長くなればなるほど、私は彼と、もっと一緒にいたいと思うようになっていた。

 
でも、これ以上踏み込んではいけない事も分かっていた。

夫とは冷め切った関係だが、今はまだ子供の事を第一に考えるべきだと思っていた。

 

彼を友人として、応援するだけにとどめよう。
そうする事で、彼の力になれるように。

 

 彼の膵臓癌は、ステージ4aで、すでに手術が出来ない状態だった。
最初の治療目標では、放射線と抗ガン剤で、出来るだけ癌を小さくし、手術が出来るまでになれば取るというものだったが、彼の身体はその治療に耐えられなかった。

彼は薬にも敏感な体質で、合うものと合わないものが極端だった。多くの人が適応可能とされている薬も、彼には合わない場合があったため、副作用に関する情報を自分で調べ、常に気をつけていた。

 

それまでは全く他人事でしかない癌という病気が、彼がそうなってから、とても身近に感じられるようになった。

 

私は、彼が目指しているナチュラルメソッドでの完治について調べ、彼と情報を交換するようになった。

 

彼は母親と2人暮らしで、自分が病気になる前から、ずっと母親の介護をしていた。

彼の母親は進行性の難病で、彼の介護なしでは普通の生活ができない状況だった。

 

そのため、彼は鹿児島に行く前に、まず母親をどこかの病院に預けなくてはならなかった。
幸い、母親を入院させられるところはすぐに見つかり、彼は鹿児島へと経った。 

 

第5章 シンクロ

1年ぶりのアシュタールとの再会で、私は、前世でも今の家族と縁があった事を知らされた。

そして今が家族みんなにとって、大きな変化の時であり、子供は、その変化を受け入れてくれる事や、私にはやらなければならない事がある、という事を教わった。

 

ただ、その時期について、アシュタールは限定しなかった。

宇宙の意思、運命、そして人間の自由意志がその時期を調整可能にしているとだけ答えた。

私は漠然と、仕事に関する事で何らかの変化が訪れるのだろうと思った。

 

そのセッションの後、緑が青々と茂った庭とアースクリスタルの前で、三揃えのスーツの彼と軽く言葉を交わした。

 

 

それから、時々彼は、私の店に来るようになった。


いつも背中の痛みを訴えていた。
触れると、脊柱に沿って筋肉が硬くなり、背中全体に強い張りがあった。特に肩甲骨の内側が痛むと言っていた。

 

私はふざけて、

「天使の羽根でも生えてきてるんじゃないですか?」

と言った。
彼は、

「そういう事ならいいんだけどね」

と苦笑した。

 

彼が店に来る時は、なぜか他のスタッフやお客様が全くいない、暇な日だった。


彼と私の話題は、いつもスピリチュアルでマニアックな内容で、そういった話が通じる相手が周りにあまりいなかった事もあって、私は彼との会話を心から楽しんでいた。

時間を忘れて、ずっと話し込んだ時もあった。

そして自然に、お互いをハンドルネームで呼び合うようになった。

 

私たちは、内面がよく似ていた。

見えない世界の存在を信じているところ、そして、まるで同じ発信源から言葉を受け取っているかのような感覚的思考。

 

彼といると、まるで自分にも超能力が身についたのではないかと思うほど、お互いを理解し合えた。

 

彼と出会ってから、身の回りでたくさんのシンクロが起き始めた。

彼からのラインが来る直前に画面を見る、という事はしょっちゅうだった。

同じナンバーの車を何度も見たり、自分が口ずさんでいた曲が、直後にラジオから聞こえて来たり、私と彼が交換したCDに同じ曲がいくつも入っていたり。


彼は、とても不思議な人だった。

自分が前世で関わった人と出会うと、その人の前世も見えるという、特殊な能力を持っていた。

 

私との前世で、彼が思い出したのは、どこかのジャングルに住む部族だった時代の事。

 

そのイメージの中で、2人は敵に捕らえられていた。私たちには、秘密を守るという使命があったが、敵は私を人質にして、秘密を喋らなければ殺すと彼を脅した。

彼は秘密を守る方を選んだ。
私は彼の目の前で殺され、その後すぐに、彼も殺されるという、哀しい前世の記憶だった。

「その時のルーシィの目が、忘れられないよ。」

と、彼は言った。

 

私は、その時代の2人の事を、もっと詳しく聞きたがった。

けれど彼は、それ以上思い出したくないらしく、教えてはくれなかった。

 

ただ、私たち2人は何度も一緒に生まれ変わり、家族だったり友達だった事もあったと言った。

 

私たちは、おそらく何かの見えない力によって、出会わされたに違いなかった。

 

そんなある日、背中の痛みが酷く、病院に行くと言っていた彼の事が気になり、メッセージを送った。

 

そして彼からの返事が来た。

「どうやら僕は、自己消滅を現実化してしまっている様だ」
「どういう事?」
「ある病気の診断を下された。これ以上は、ここで言いたくない。今度会った時に話すよ」

 

私は初めて彼をランチに誘った。
数日後に会う事になった。

 

約束の日。私は咳をしていた。連日のオーバーワークで疲れが溜まっていて、もう1週間も治っていなかった。


彼はいつものようにスーツ姿で、私より早く来て待っていた。


話の内容が深刻なものである事も踏まえて、人目が気にならない様に、個室のあるレストランを選んだ。

 

膵臓癌だって」
最初、他人事の様に、彼は言った。

 

数日前、テレビでたまたま膵臓癌の特集を見ていた私は、その病気をある程度、理解していた。

痛みが出てから見つかった膵臓癌は、すでに進行している事が多いという事も知っていた。

 

「レベル4だ。余命6ヶ月と言われたよ。

明日から入院する。抗がん剤治療を受ける事になった」
彼は、平然と言った。


その表情は、むしろ私がショックを受けたのではないかと心配しているかの様だった。

 

「大丈夫。ミッキーは普通じゃないから。」

私が彼を勇気づけようと冗談っぽく言うと、彼は笑顔になった。

「みんな、そう言うよ。」

 

別れ際に私は、彼の病気が良くなるように、天使に依頼すると約束した。


「ありがとう。お願いするよ。それより、その咳を早くどうにかしないとね。お大事に」

 

自分が末期癌の宣告を受けたばかりというのに、普通だったら他人の事なんかどうでもいいと思ってしまいそうなのに、彼はそうではなかった。

自分より他人の気遣いをする彼に、私は心を打たれた。

 

第4章 コマンダー


初めてアシュタールに会った日から、4年が経った。

 

最初のセッション以降、テリーさんが日本に来るたびに、グループセッションに参加していたが、ここ1年ほど遠ざかっていた。

 

そんな中、地元高知でアシュタールのセッションが開催される事を知った。


今度は、個人セッションを受けて見る事にした。そして、私は初めてアシュタールに、自分の家族の事を聞いてみるつもりだった。


アシュタールのセッションまで、あと2ヶ月を切った頃、一人の男性が、私のサロンにやってきた。

その男性は、イギリスの紳士のような三揃えのスーツ姿で現れた。


彼が店に来るのは、その日が初めてだったが、私は彼を知っていた。

 

共通の友人を通じて、名前を知っている程度だったが、フェイスブックで一度だけメッセージをもらった事があったからだ。

 

彼はスピリチュアリズムに興味を持ち、フェイスブックでも超常的な話題をよく取り入れている人だったが、私は勝手な偏見で、彼を胡散臭い人だと思い込んでいた。

 
彼の名前を、ネットの予約ボード上に見つけた時、そして予約の時間になり彼が店に入ってきて、私が予想していた人が彼だったと分かった瞬間、私は「とうとう出会ってしまった。」と思った。

 

別に今までも、知り合う機会はいくらでもあったはずなのに、自分はどこか無意識的に、彼と関わる事を避けていた。

 

けれど、なぜ避けたいと思うのか、自分でも分からなかった。

 

彼は、今まで私が惹かれたタイプの男性ではなく、何となく「住む世界の違う人」という印象だった。

 

 

彼のほうはというと、私がフェイスブックに顔写真を載せていなかった事もあり、以前自分がメッセージを送った相手とは気づいていなかった。

 

私は、出来るだけ平静を装って、彼に他のお客様と同じように接する事にした。

 

意外にも彼は、とてもソフトな印象の人だった。
私は少し話をしただけで、彼の人の良さに引き込まれてしまった。

そして、彼が自分が思っていたような胡散臭い人ではない事を、直感的に悟った。

 
最初は知らぬフリを通すつもりでいたはずなのに、彼を前から知っている事を伝えるかどうか迷い始めた。

 
施術が終わり、お茶を出すタイミングで、私は彼に思い切って聞いてみた。


「もしかして、フェイスブックをやってますか?」
すると、すぐに打ち解けて話が弾んだ。

 

初対面なのに、なぜか相手の言いたい事が手に取るように分かるのが不思議だった。

 

彼の背後には見えない存在がいて、時々何か話し掛けてくる、と言った。

 

そして彼が、尋ねた。

「後ろの者が、コマンダーと言ってるんだけど、何の事だか分かる?」

 

コマンダー‥‥ですか?」


アシュタールの事だと思った。

 

アシュター ルは、宇宙船の司令官、つまりコマンダーと呼ばれていたからだ。


私は、何か運命的なものを感じて、こう言った。

「そういえば、アシュタールという存在をチャネリングする方が、今度高知に来ますよ。もしかしたら、セッションに呼ばれてるんじゃないですか?」

 

ところが彼は、あまり気乗りしないようだった。


「考えとくよ」

そう言って、その日は帰って行った。


数日後、フェイスブックメッセンジャーに、彼からのメッセージが届いた。


行くはずだった別のセミナーがキャンセルになり、代わりにアシュタールのセッションを申し込んだ、という内容だった。


アシュタールセッションに問い合わせた時、残っていたのが最後の一枠で、これは自分のために残されていたような気がした、と彼は言った。

 

セッションの日時は、私のすぐ後の枠だった。

 

「では、セッションの当日にお会いしましょう。」

 

 

第3章 点火の後

アシュタールに出会ってから、私の住む世界は次第に変わり始めた。
 
それまでの私は、どちらかというと受け身で、あまり自己主張をするタイプではないはずだった。
けれどあの日以来、薄皮を剥くように少しずつ、自分の本当の気持ちを新たに発見する事が多くなった。
 
私は人を癒す事に喜びを見出し、それまでの仕事を辞め、リラクゼーションの仕事に就いた。

けれど、外に出て遅い時間まで働く事に、夫はあまりいい顔をしなかった。
 

夫には、自分にないものを感じて結婚した。
結婚して、すぐに子供が出来た。

数年後、仕事のストレスからか、夫は感情的に怒鳴る事が多くなった。

夫は周りの事はお構いなしにマイペースで物事を進めるタイプの人だった。
自己主張のなかった私は、夫とほとんど喧嘩した事がなかった。
私が夫に合わせる代わりに、夫なりに私を守ってくれている、そんな関係だった。

けれども自我が芽生え、自分でやりたい事がはっきりと見えてくるようになると、夫の言動が、私を否定するものに変わってきた。
私の方も、ただ黙って耐える事はなくなり、夫に意見するようになった。

それでも、またいつか一つになれると信じた。
 
変わりつつある自分を、受け入れてもらう努力をする私と、今まで通りの関係を維持しようとする夫。

言いかえれば、お互いが成長するために必要な相手だったのかもしれない。
けれど、いつからか、一緒にいて心休まる相手ではなくなっていた。
 

私は、夫と別れる事にした。

夫に別れる意思があることを伝えると、
「自分も変わるよう努力する。」
と言った。

けれど私は、
「ありがとう。でももう変わらなくていいよ」
と返事をした。
 
変われるなら、今までも充分すぎるほどチャンスはあったはずだった。

もしかすると、お互いを変えようと努力すること自体が、間違いかもしれないと思うようになっていた。

私が「点火」されなければ、結婚生活はずっと続いていたかもしれない。

けれど私は、自分らしい本当の生き方にようやく出会えたと思っていた。
もう後戻りはできなかった。

夫と何度も話し合い、家族にとって何がベストなのかを考えた。
そして、別れる時期を、子供の成長を待ってからにするという結論に至った。


自分の波動が変わるたびに、出会う人、去ってゆく人がいた。私の周りの環境も、少しずつ変わっていった。

点火を経験するという事は、それまでの人生ではなくなってしまうという事だったのだ。


あのセッションの最後に、アシュタールは、
「あなたはずっと、ソウルメイトを探し続けています」
と言った。
 
子供の頃からずっと、自分には魂の片割れがいると信じていた。
その相手と出逢うのを夢見て、自分が探していたのは夫だと思って結婚した。

けれどアシュタールに出会った頃には、本当に今の夫が、自分の探していた相手なのかと考えるようになっていた。

結婚した事は、間違いではなかった。
ただ夫と私、2人がともにいる事で学ぶべき事は、すべて学び終えた。そんな感覚だった。

後は、子供の成長を待つだけだった。
彼らが、自分たち親を必要としなくなるまで、待つつもりでいた。

その一方で私は、自分とそっくりの魂を持った唯一無二の存在が、この世界のどこかにいるのではないかと、漠然と思いを巡らせていた。
 

第2章 星の種

アシュタールのセッション内容は、参加者たちのエネルギーによって決まる。

その日集まった8名は、半分以上が初参加ということもあり、初心者向けのアシュタールの自己紹介から始まった。

 

初めにアシュタールが言った。

「これから私がお話しする事は、おとぎ話か何かだと思って聞いてください。」

 

アシュタールは現在11次元にいる肉体を持たない光の存在であり、人間の身体を持っていた頃は、金星人だった。

 宇宙船の司令官であることから、アシュタール・コマンダーと呼ばれている。


地球に文明が生まれるはるか昔、金星にも人類が住んでいた。

しかし環境破壊が進み、人間が住めなくなったため、アシュタールは多くの人々とともに、宇宙船で金星を脱出する事にした。


それからアシュタールは、地球の起源について語り始めた。
蒼く美しい惑星である地球を、アシュタールは「魂の遊び場」と呼んでいた。

 

アシュタールによると、魂が進化のために肉体を持って転生する場所として地球は存在している。

3次元の肉体を持って生まれてくることのできる地球は、宇宙の中でも稀な、とても貴重な経験ができる場所だと言う。

けれど、そんな地球は今、地球の人間の手によって、かつての金星と同じように、環境破壊が進んでいる。

 

はるか昔にアシュタールは、今の地球の状況を予知していた。
そして宇宙中を旅し、たくさんの精鋭を集めた。

彼らはアシュタールに、地球を助けるための行動をすると同意し、地球にやってきた。


そして、3次元のルールに従い、彼らは自分のルーツを忘れて、地球人類として転生を繰り返しているが、地球が滅亡の危機に直面した時、使命に目覚めることになっていた。

 

その精鋭たちを、アシュタールは、「スターシード」と呼んだ。アシュタールが精鋭たちに再び会い、使命を思い出させることによって、彼らは目覚めるのだと言った。


アシュタールは、その作業を「点火」と呼んでいた。

 

本当におとぎ話のような話だった。
にわかには、信じがたい話だ。

 

けれど、その話を聞いているうちに、なぜか心が揺さぶられるような激しい感情が湧いてきて、涙が溢れそうになっている自分に気づいた。


なぜ自分が泣きそうになっているのか、全く理解できなかった。

 

真向かいに座った女性も、同じように涙を浮かべていた。
それは、すぐに嗚咽に変わった。

 

アシュタールは、その女性をやさしく気遣って、

「どうぞ、使ってください。」

と、傍らにあったティッシュを差し出した。

すると、女性の泣き顔が笑顔に変わった。

 

そして場が和んで静かになった時、おもむろに、アシュタールが言った。


「今日ここに集まった全員が、私のスターシードです。

あなた方は、これからの地球の行く末を、よりよくするために生まれてきました。」

胸の奥の方から感情が、また込み上げてきた。


ここに至るまでの、すべての思いが繋がったような気がした。

 

するとアシュタールが、私のほうを向いて言った。

 

「あなたは心の中で、こう尋ねたでしょう? 
私、本当にアシュタールに会ったことある?
もちろん、あります。

私が、安泰な星で平和に暮らしていたあなたを、宇宙船に乗せ、地球に連れて来ました。」


アシュタールは、また私の心を読んで、穏やかに言った。

 

「でもまだあなたは、本当に?と思っていますね。

それは、仕方のないことです。

あなたがたのように、3次元の肉体を持っていると、意識がヴェールで包まれた状態だからです。」

 

それからアシュタールは、私の使命について、こう告げた。

 

「あなたは、プレアデスから来ました。あなたはヒーラーです。あなたは、愛です。」

 

私が、ヒーラー⁉︎


その言葉を受け取った瞬間、私の中で何かがはじけたような感覚があり、涙が溢れて止まらなくなった。


今まで何のために生きているのか分からず、何をやってもずっと中途半端だった自分。

 

何か大切な事を忘れている様な感覚。

 

その年、東日本大震災が起き、多くの人が被災して苦境に立たされているのを見て、自分にも何かできないかという思いから、レイキアチューンメントを受けた。

 

けれど、人を癒すことが自分の生まれてきた理由だと思うなんて、おこがましいと思っていた。

 

こんな自分が?
スターシード?

 

「あなたは、生命力に溢れています。明るく人を照らします。その温かい手で、人々を癒すことがあなたの使命です。祝福します。」

 

そう言いながら、アシュタールは胸の前で、静かに手を合わせた。

 
アシュタールが私に語りかけている間、私はずっと涙を流していた。

 

全く記憶がないにも関わらず、アシュタールの言葉がデタラメだと思えない何かがあった。


魂が覚えている、そんな感覚だった。