第1章 アンダンテの暗号

私が、金星意識アシュタールの事を知ったのは、2011年9月。

大阪のパワーストーンの店でもらった、小冊子の1ページだった。

 

それは、あるアメリカ人女性が、11次元のアシュタールという存在をチャネリングするという、セッションの告知だった。

 

信憑性があるかないかはともかく、なんだか面白そう、というのが最初の印象だった。

 

そのページには、その年の3月に未曾有の震災を経験した日本人に向けて、アシュタールからのメッセージが綴られていた。

そして最後に、
「アンダンテ 私はアシュタール」
という署名があった。
 
私はメッセージそのものより、なぜここに「アンダンテ」という言葉が出てくるのかと気になった。
 

10年前のある日、「アンダンテ」というワードが、突然、私の頭の中に入ってきた事があったからだ。

そのワードに、何の馴染みもなく、当時は意味すら知らなかった。

調べてみてようやく、それが音楽用語であり、
「歩くような速さで」という意味の演奏記号だと分かった。
 
けれど、そのワードが私にとって、何を意味するのか、答えを見つける事が出来ないままでいた。
 そして、そのまま忘れ去っていた。
 
 今、あの時の「アンダンテ」が、もう一度私の目の前に現れた。
 
それが謎かけか暗号のようにも思えた。
ただの偶然の一致だろうか?
 
迷いはあったが、私はすぐにアシュタールのセッションに申し込んだ。

もしこれが、あの時の「答え」だとしたら、私はこのアシュタールという存在に会う必要があるのかもしれないからだ。

 

セッション当日。
私は予定通りバスに乗り、大阪に降り立った。

自らセッションを申し込んだものの、まだアシュタールと、自分の中で鳴り響いた「アンダンテ」との繋がりに確証があった訳ではなく、アシュタールの存在すら完全に信じている訳でもなかった。

会場である店の一角では、ライトオブアシュタールの展示即売会が開催されていた。

ライトオブアシュタールとは、アシュタールの光のエネルギーをチャネリングして製作されるジュエリーの事のようだった。

初めは遠くから見ているだけだったが、一つだけ気になる石を見つけた。

「水のヒーラー」という名前がつけられたその石は、装飾のシンプルなクリスタルだった。
 
「気になる石があれば、つけてみてください。」
 製作者らしき女性が、声をかけてくれた。
 
不意に声をかけられて、私は少し気弱になった。
値札に書いてある金額を持ち合わせていなかったし、普段の私なら諦めてしまうような金額だった。

それでもなぜかその時は、素直にその石をつけてみたいと思った。

つけた瞬間、暖かいものを感じた。大きな石なのに、重さも全く感じなかった。

これは、私の石だ。

そんな気がして、財布の中身も確認せず、クレジットで買ってしまった。

セッションが始まるまでの間に、我に返った。衝動買いした自分が、信じられなかった。
 
けれど一方で、その石が私を今以上に輝かせてくれるような予感もあった。


やがて、セッションの時間が近づいてきた。

サークル状に置かれた椅子の、できるだけ奥の席に座った。
静かな期待の中、全員が席に着いたのを見計らったように、チャネラーのテリーさんと通訳の女性が部屋に入って来た。

テリーさんのオーラは透明感があり、歩くたびにキラキラと光がこぼれているように見えた。

彼女は、私のすぐ隣に座った。
通訳の女性がセッションの流れを説明し、チャネリングの開始を告げた。

テリーさんが、グラウンディング用の白っぽい小さな石ころを手にして、呼吸を整える。

そして、大きく息をした次の瞬間、何か別のエネルギーが、そばに来たのが分かった。

全身にぞわっと鳥肌が立つ。

テリーさんは突然低い声になり、
「ホッホー」
という変な笑い声をあげた。

私は今までに感じた事のないエネルギーに圧倒され、怖くなった。

すると、テリーさんに入ったばかりのアシュタールが、私のほうを向いておどけて言った。

「怖がらなくても大丈夫。突然襲いかかったりしませんよ」

心を読まれて、どきっとした。
 
その言葉は、攻撃的な宇宙人が地球人を滅ぼそうとする、昔見たSF映画を皮肉っているようにも思えた。

固まった私をみて、アシュタールがまた笑った。
 
「ホッホー」
アシュタールは、おどけながら手をクルクル回した。
それはまるで、魔法のようだった。

気がつくと、先ほどの恐怖は薄らいで、真綿に包まれたような温かい気持ちになっていた。