第16章 永遠

彼がセッティングしてくれたアシュタールセッションのおかげで、私の心は随分と救われた。

 

それでもなお私は、自責の念に捉われたり、後悔したりした。

 

毎日毎日、いろんな思いが湧いてきては、冷静に考えられなくなって、疑心暗鬼になったりした。

 

彼といた時は、出来るだけ前向きに考えようと努めていた。
悪い想像をすれば、それが現実になってしまうのではないかと思い、すぐにイメージを削除することにしていた。

でも、それは、もしかすると彼のありのままの状態を受け入れてないだけなのかも知れなかった。

 

私が彼の死を、到底受け入れられないだろうと思ったのだろう。彼は、優しさから自分の死後の話を私の前で一切していなかった。

 

彼の母親に、彼が何か言い遺してなかったかと聞かれた時に、初めてその事に気づいた。

私はポジティブでもプラス思考でも何でもなかった。ただ見たくないものに蓋をしていたに過ぎなかったのだと。

 

けれど、アシュタールを通じて伝えてきた彼のメッセージは、私のネガティヴな幻想を打ち砕いてくれた。

 

まるで彼は、すべてを前もって予期しているようだった。 

 

 

私はお世話になったナースたちにお礼を言うため、彼のいた病棟を訪れた。

 

その日は、彼が一番心を許していたSさんというナースに会った。

彼女は非番で、彼の最期に立ち会うことが出来なかった。けれども他のナースからのメールで、彼が亡くなった事を知らされていた。

 

Sさんは、彼が毎日私が来るのを待っていたと教えてくれた。

Sさんが病室に入ると、彼はいつもがっかりしたような顔をした。

「彼女かと思った?」とSさんはからかった。


彼は、私の前では少しもそんな素振りを見せなかった。

むしろ、「オレの事はいいから、ちゃんと仕事しろよ。」などと言うことが多かった。


けれどSさんは、彼は私が来るのを心待ちにしていたのだと言った。

 
私は、ずっと気になっていた事を、Sさんに打ち明けた。

「私、彼が亡くなる3日前、彼に酷い事を言ってしまったんです。彼の世話を優先するあまり仕事が後回しになってるから、そろそろちゃんと仕事もしないとって。生活が苦しくて、焦りと不安がすごくあって。あの時、あんな事を言わなければ良かった。あれで彼の気持ちが切れてしまったのかも知れない。私の重荷になると思わせてしまったせいかも知れない。」

私は泣きじゃくりながら言った。すると、
「そんな事ない。」
と、Sさんは答えた。

そう言った彼女の目からも、涙がこぼれた。

 

「本当に、あなたがいたから、彼もここまで頑張れたんだよ。ここのナースも、みんな2人の事を応援してた。
あなたも本当に毎日、遅い時間まで、大変だったね。こんなにしてくれる人いないよって、私、彼といつも話してたんだから。いい人見つけたねって。

彼はあなたが無理してる事もちゃんと理解してたし、それでも毎日来て、マッサージしてくれるんだって言ってた。

私たちナースもみんな、あなたたち二人を見てて、いつも感動してたんだよ。」

 

Sさんと話す事で、彼が私に言ってくれなかった、溢れるほどの私への想いが伝わってきた。

 

それはまるで、彼が先回りして、私を慰めてくれているかのようだった。

 

彼は、毎晩地獄のような痛みと息苦しさに耐えていた。
私が帰ってから、夜が明けるまでの長く孤独な時間を、ずっと。
また次の日、私に会うために。

 

 

そしてさらに、お通夜の夜に彼の母親から聞かされた、彼の想いの深さ。

 

「あの子とあなたが車で出かけ始めた頃、やっと好きな人が出来た、と私に言ってくれたの。

 

私はあの子が早く結婚してくれたら良いと思っていたけど、相手は人の奥さんだし、自分の病気の事もあるから、一緒にはなれないと。

 

だから、あなたの事は、最初から他人とは思えないのよ。会う前から、ずっとどんな人だろうと思って気になっていたから。

 

死ぬまで結婚は出来なかったけど、まるで夫婦みたいに毎日過ごせて、あなたのおかげであの子は幸せだったよ。」

 

私の前では、ずっと頑なに「恋人にはなれない」と言っていた彼。

 

本当は、ずっと前からお互いの想いは通じ合っていたんだ。

 

天使に、彼の気持ちを訊ねながら引いたカード。

「Wedding  結婚 」

 

もし、もっと早く出会えていたら、二人はどんな人生を歩んでいただろう。

なぜ、もっと早く出会えなかったんだろう?

なぜ、今だったんだろう。

 

でも、最後の答えは、何となく分かる気がした。

彼の魂はもしかしたら、私と出会った時に、今度は自分が先に死ぬと決めていたのではないだろうか。

いつも愛する人を失うという人生ばかりだったから、今回だけは、自分の愛する人に看取られたかったんじゃないだろうか。

 

 

彼の肉体がこの世から無くなるまでの間、私は何度も何度も彼に触れた。

彼に触れられる事で得られた幸せも、安心感も、愛も、すべて一緒に失ってしまう様な気がして、辛くて仕方がなかった。

残りの時間、彼の感触を確かめるように、彼の肌を覚えて手のひらに刻み込むように。

彼の好きだったラベンダーの香りを、そっと襟元に染み込ませた。


お葬式の前夜、彼の遺影の前で、長い間ぼんやりとしていた時、笑っているはずの彼の顔が、なぜか涙を流しているように見えた。

「あなたも泣いてるんだね。」
と私は呟いた。

 

彼と出会って1年と少し。恋人として一緒にいられたのは、77日という僅かな時間だった。

でも、私たちは必要な時に出会い、お互いの事を慈しみ、愛し合う事が出来た。

 

彼の好きだった曲を選んで、お葬式にかけてもらった。曲を選ぶ時も、私は彼に訊ねながらCDを作った。


お葬式が終わって、数日後。
彼が私に見せてくれた夢の中で、彼の背中には、羽根が生えていた。

それはまさに、私がハルミさんのセッションの時に見た、黄金色に光り輝く大天使のような姿だった。


「かっこいいだろ? これで、どこへでも飛んで行ける。」
彼は少し得意げに言った。


彼の魂は、自分が亡くなる日をアシュタールのセッションに合わせたと、私は思っていた。

それは彼なりに自分の想いを私に伝えるためだったのではないか。

シャイな彼の口からは聞けなかった、たくさんの愛の言葉を、アシュタールが代わって伝えてくれた。

本当は、桜が散る頃に終わるはずだった命を、セッションの日に引き延ばしてまで、彼が伝えたかった事。

 

「ずっと一緒にいる。」

 
あれ以来、彼は、部屋の天井や壁を鳴らして、私に自分の存在を知らせてくる。


彼の好きだった曲を一緒に聞いて、彼の写真をたくさん飾った。

 

毎日、涙が枯れるまで泣いた。

声を上げて泣いてると、彼の声が聞こえてきた。

「何で泣くの?」

 

最初は、気のせいだと思った。

彼の写真を眺めていると、

「オレはこっちだよ。」

 と、右側からまた声がした。

 

「ミッキーなの?」

 

返事の代わりに、暖かいものに包まれた気がした。

ミッキーは、光になった。

そして私の守護天使となり、そばに居続ける事にしたんだ。

アシュタールが、そう言ったように。

 

彼とのコンタクトは、あれ以来ずっと続いている。

いつか彼が行きたがっていた、シャスタの地に行こうと思っている。